
「フリーランスになって、そういえば退職金も厚生年金もないんだと気づいて不安になった…」

「NISAやiDeCoは会社員向けの話だと思っていたけど、個人事業主でも関係あるのかな?」
結論から言うと、フリーランス・個人事業主こそ、会社員以上に「自分で老後・将来の資金を準備する」意識が欠かせません。厚生年金や退職金といった会社員が当たり前に持つ仕組みがない分、NISAやiDeCoといった制度を理解し、無理のない範囲で活用することが資産形成の土台になります。この記事では、会社員との違いを整理しながら、フリーランス・個人事業主が投資を始める前に知っておきたいポイントを、初心者向けに解説します。
なお、本記事は制度の一般的な解説を目的としたものであり、特定の金融商品の購入や、iDeCo・NISA・小規模企業共済のどれを選ぶべきかを助言するものではありません。投資である以上、価格変動により元本割れする可能性があります。最終的な判断はご自身の状況を踏まえ、余剰資金の範囲で行ってください。制度・金額は執筆時点(2026年8月)の情報であり、今後変更される可能性があるため、必ず公式情報もあわせてご確認ください。
なぜフリーランスは「自分で備える」意識がより重要なのか
厚生年金・退職金がない分、将来の備えは自分次第
会社員・公務員は、国民年金(基礎年金)に加えて厚生年金という「2階部分」に加入しており、勤務先によっては退職金や企業年金も用意されています。一方、フリーランス・個人事業主(国民年金の第1号被保険者)は、原則として国民年金のみで、厚生年金や退職金にあたる仕組みは基本的にありません。
- 老後に受け取れる年金額は、会社員に比べて少なくなりやすい
- 退職金という「まとまった一時金」は、自分で準備しない限り存在しない
- 傷病手当金など、休業時の公的な所得保障も会社員より手薄になりやすい
こうした構造の違いがあるため、フリーランスは「気づいたら何も備えていなかった」という状態を避けるために、早めに資産形成の考え方を知っておくことが大切です。
📰 出典:日本年金機構「国民年金保険料」
収入の波が大きいことも踏まえて考える
会社員と違い、フリーランスは月々の収入が安定しないことも珍しくありません。繁忙期と閑散期で収入に大きな差が出たり、取引先の状況によって急に収入が減ったりするリスクも会社員より高い傾向にあります。この「収入の波」を前提に、資産形成の計画を立てる必要がある点も、会社員との大きな違いです。
始める前に:まず確保しておきたい「生活防衛資金」と「事業運転資金」
投資を始める前提として、まず確保しておきたいのが、生活費用の予備資金(生活防衛資金)です。会社員であれば生活費の3ヶ月〜半年分が目安とされることが多いですが、収入が不安定になりやすいフリーランスの場合は、半年〜1年分など、やや厚めに確保しておく考え方が一般的です。
さらにフリーランス・個人事業主の場合、生活防衛資金に加えて、次の取引先からの入金が途切れても事業を続けられるだけの「事業運転資金」も別途必要になります。
- 生活防衛資金:生活費の半年〜1年分を目安に、投資に回さない預貯金として確保する
- 事業運転資金:仕入れ・外注費・税金の納付など、事業を止めないための資金を別枠で確保する
- 上記を確保したうえで、余った資金(余剰資金)の範囲で投資を検討する
「収入が良かった月にまとめて投資してしまい、翌月の事業資金や税金の納付に困る」という事態は避けたいところです。事業のお金と資産形成のお金は、はっきり分けて管理することを心がけましょう。
会社員とフリーランス、資産形成の違いを比較
| 項目 | 会社員・公務員 | フリーランス・個人事業主 | |—|—|—| | 年金の仕組み | 国民年金+厚生年金(2階建て) | 原則、国民年金のみ | | 退職金 | 勤務先の制度による | 基本的になし(自分で準備) | | 収入の安定性 | 比較的安定しやすい | 月ごとの変動が大きくなりやすい | | iDeCoの掛金上限(執筆時点) | 月1万2,000円〜2万3,000円程度(企業年金の有無等による) | 月6万8,000円(国民年金基金・付加保険料と合算枠) | | 確定申告 | 原則不要(年末調整) | 毎年必須 |
このように、iDeCoの掛金上限だけを見るとフリーランスの方が大きく設定されていますが、これは「厚生年金や退職金がない分、自分で用意できる枠を広くしてある」という位置づけと理解しておくとよいでしょう。上限いっぱいまで拠出することが正解というわけではなく、あくまで自分の収入と支出のバランスの中で検討することが大切です。
フリーランスが検討したい主な制度
NISA(少額投資非課税制度)
NISAは、株式や投資信託を売却して得た利益・配当や分配金にかかる税金(通常約20%)が非課税になる制度で、働き方に関わらず利用できます。2024年からの新しいNISAでは「つみたて投資枠」と「成長投資枠」があり、あわせて生涯で1,800万円まで非課税で投資できる仕組みです(執筆時点)。収入の変動が大きいフリーランスにとっては、いつでも売却して現金化できる(=資金の拘束が少ない)点が、後述のiDeCoとの大きな違いです。
📰 出典:金融庁「NISAを知る」
iDeCo(個人型確定拠出年金)
iDeCoは掛金が全額所得控除の対象になるなど税制優遇が大きい一方、原則として60歳になるまで引き出せません。フリーランス(第1号被保険者)の掛金上限は月6万8,000円ですが、これは国民年金基金や国民年金の付加保険料と合算した枠であり、それらを利用している場合は上限が変わる点に注意が必要です。
収入が不安定になりやすいフリーランスにとって、「引き出せないお金」を増やしすぎると、収入が落ち込んだ年に資金繰りで困る可能性があります。iDeCoを検討する際は、生活防衛資金・事業運転資金を確保したうえで、無理のない掛金から始めることが重要です。
小規模企業共済(退職金の代わりとなる制度)
小規模企業共済は、個人事業主や小規模企業の経営者が加入できる、いわば「自分で作る退職金制度」です。掛金は月1,000円から7万円の範囲で選べ、掛金は全額が所得控除の対象になります。iDeCoとは別枠で加入できるため、両方を組み合わせて検討する事業主もいます。ただし、加入資格や掛金の増減、共済金の受け取り方には細かいルールがあるため、詳しくは運営元の公式情報で確認してください。
📰 出典:中小機構「小規模企業共済制度の概要」
フリーランスが資産形成を始める4つのステップ
ステップ1. 生活防衛資金と事業運転資金の目安額を決める
まずは自分の毎月の生活費・事業経費を洗い出し、生活防衛資金(半年〜1年分の生活費)と事業運転資金の目安額を決めましょう。ここが投資の土台になります。
ステップ2. 確定申告の還付・納税分を踏まえて投資に回せる額を考える
フリーランスは毎年確定申告が必要で、所得税・住民税・国民健康保険料・国民年金保険料などをすべて自分で納める立場にあります。投資額を決める際は、こうした納税予定額を差し引いた後の「本当に余剰といえる資金」で考えることが大切です。
ステップ3. まずはNISAのつみたて投資枠から、少額で始めてみる
資金の拘束がなく、収入の変動にも対応しやすいNISAのつみたて投資枠は、フリーランスが最初に検討しやすい選択肢の一つです。月々数千円〜1万円程度など、無理のない金額から始め、値動きに慣れることを優先しましょう。
ステップ4. iDeCo・小規模企業共済は「資金が拘束される」点を理解した上で検討する
収入が安定してきた段階で、税制優遇の大きいiDeCoや小規模企業共済の活用を検討するのも一つの考え方です。ただし、いずれも掛金を柔軟に引き出せる制度ではないため、事業の状況や将来の資金計画とあわせて、無理のない掛金を設定することが重要です。
フリーランスがやりがちなNG行動
事業運転資金まで投資に回してしまう
収入が良かった月に「余裕があるから」と事業運転資金まで投資に回してしまうと、翌月以降の仕入れや外注費、税金の納付に困る可能性があります。事業のお金と投資に回すお金は、必ず分けて管理しましょう。
iDeCoに拠出しすぎて資金繰りが苦しくなる
税制優遇の大きさに惹かれて上限近くまでiDeCoに拠出した結果、収入が落ち込んだ年に手元資金が不足するケースも考えられます。iDeCoは原則60歳まで引き出せないため、「今すぐ使う予定はないお金」の範囲で拠出額を決めることが大切です。
「一発逆転」を狙って値動きの荒い商品に集中投資する
収入が不安定な不安から、短期間で大きく増やそうとして、値動きの大きい特定の商品に資金を集中させることは避けましょう。この記事は特定の銘柄・商品を推奨するものではなく、長期・分散・積立を基本とする考え方をおすすめします。
知っておきたいリスクと注意点
| 注意点 | 内容 | |—|—| | 元本割れの可能性 | 株式・投資信託は値動きのある商品であり、投じた金額を下回ることがあります | | iDeCoの資金拘束 | 原則60歳まで引き出せないため、収入変動に備えた資金は別途必要です | | 制度変更の可能性 | 掛金上限・非課税枠などの制度内容は将来変更される可能性があります | | 確定申告との関係 | 控除の適用には確定申告での手続きが必要になる場合があります。具体的な取り扱いは税務署・税理士にご確認ください |
フリーランスからよく聞かれる疑問
Q. NISAとiDeCo、どちらを優先すべき?
収入が不安定になりやすいフリーランスの場合、まずは資金の拘束が少ないNISAから始め、収入が安定してきた段階でiDeCoの活用を検討する、という順番で考える方も少なくありません。ただし、どちらが向いているかは収入の状況や将来設計によって異なるため、一律に「こちらが正解」とは言えません。
Q. iDeCoと小規模企業共済は両方使ってもいい?
制度上は併用が可能で、どちらも掛金が所得控除の対象になります。ただし、両方に多く拠出すると手元の資金が厳しくなる可能性があるため、事業運転資金とのバランスを見ながら検討することをおすすめします。
Q. 収入が少ない月は積立を止めてもいい?
多くのNISA口座・iDeCoでは、積立額の減額や一時停止が可能な場合があります。無理に積立を続けて生活や事業に支障が出るくらいなら、収入に応じて金額を調整したり、一時的に停止したりすることも選択肢の一つです。制度ごとの具体的な手続きは、利用している金融機関にご確認ください。
まとめ 「事業のお金」と「将来のお金」を分けて考える
フリーランス・個人事業主は、厚生年金や退職金がない分、自分自身で将来の備えを作っていく必要があります。とはいえ、いきなり多くの金額を投資やiDeCoに回す必要はありません。まずは生活防衛資金と事業運転資金をしっかり確保し、その上で余剰資金の範囲で、NISAなどを使いながら長期・分散・積立を基本とした資産形成を検討してみてください。
投資は「必ず増える」ものではなく、元本割れのリスクは常にあります。iDeCoや小規模企業共済は資金が拘束される点も踏まえ、ご自身の収入状況や事業計画に合った金額・制度を、公式情報を確認しながらご自身の判断と責任で選ぶようにしましょう。

