
「同じ『日経平均に連動』とうたう投資信託なのに、運用会社によって成績が微妙に違うのはなぜ?」

「信託報酬がだいたい同じくらいなら、どれを選んでも結果は同じだと思ってた…」
結論から言うと、同じ指数(ベンチマーク)への連動を目指すインデックスファンドでも、実際の値動きにはどうしても小さなズレが生じます。このズレの大きさを表す指標が「トラッキングエラー」です。数値が大きいほど「指数どおりの運用成績が得られていない」ことを意味し、ファンド選びの際に信託報酬だけでは見えてこない「運用の質」を確認する手がかりになります。この記事では、トラッキングエラーの意味、混同されやすい「乖離率」との違い、発生する主な要因、初心者でもできる確認方法、注意点までをやさしく解説します。
※本記事は情報提供を目的としたものであり、特定の投資信託・ETFの購入を推奨するものではありません。投資は元本割れのリスクを伴いますので、最終的な判断はご自身の責任で、余剰資金の範囲で行ってください。制度・商品内容は変わることがあるため、記載内容は執筆時点(2026年8月)の一般的な情報としてご確認ください。
そもそもトラッキングエラーとは?初心者が最初に知っておきたい仕組み
ベンチマークとファンドの成績のズレを数値化したもの
インデックスファンド(インデックス投資信託・ETF)は、日経平均株価やTOPIX、S&P500といった特定の指数(ベンチマーク)に連動する運用成績を目指す商品です。しかし、実際の運用成績は指数の値動きと寸分違わず一致するわけではありません。
投資信託協会の用語集によると、トラッキング・エラーとは、インデックス・ファンドに代表されるパッシブ運用の投資信託の、ベンチマークからの乖離のことで、通常はファンドのリターンとベンチマークのリターンとの差異を年率標準偏差で測定するものとされています。数値が大きいほど、ファンドの値動きがベンチマークから離れていたことを示します。
つまり、トラッキングエラーは「そのファンドがどれだけ指数に忠実に連動できているか」を表す成績表のようなものだとイメージすると分かりやすいでしょう。
「乖離率」とは何が違う?似ているようで違う2つの言葉
ETF(上場投資信託)を調べていると、「乖離率」という似た言葉を目にすることもあります。この2つは混同されがちですが、意味しているものが異なります。
- トラッキングエラー:一定期間における、ファンドの運用成績(リターン)と指数のリターンとの「ズレ」を統計的に測定したもの(運用の質を表す指標)
- 乖離率:ETFの「市場価格」と、その時点の資産価値である「基準価額」との瞬間的な価格差(市場での需給を表す指標)
📰 出典:ETFの2つの価格の乖離率について(ETF投資戦略52)(NEXT FUNDS/野村アセットマネジメント)
野村アセットマネジメントの解説でも、乖離率は市場価格が基準価額からどの程度離れているかを示す指標として説明されており、トラッキングエラー(運用成績のズレ)とは別の概念として整理されています。
「乖離率が小さい=トラッキングエラーも小さい」とは限らないため、両方の言葉が出てきたときは、どちらの話をしているのか意識して読むことをおすすめします。
なぜズレが生じるのか?トラッキングエラーが起きる主な要因
「指数に連動を目指しているのに、なぜピッタリ一致しないの?」と疑問に思う方も多いはずです。主な要因は次のとおりです。
信託報酬などの運用コスト
📰 出典:【ETF用語集】トラッキングエラー(アモーヴァ・アセットマネジメント/旧・日興アセットマネジメント)
日興アセットマネジメント(現・アモーヴァ・アセットマネジメント)のETF用語集では、トラッキングエラーが生じる要因の一つとして経費率(信託報酬など)が挙げられており、信託報酬等が1%のETFであれば、他の条件が同じ場合、指数と比べて成績が1%程度悪くなる傾向があると説明されています。運用会社は指数どおりの銘柄を売買・保有するためにコストをかけており、そのコストがそのまま指数との差になりやすいということです。
構成銘柄の入れ替え(リバランス)のタイミング差
指数を算出している機関(日経平均であれば日本経済新聞社など)が構成銘柄を定期的に入れ替える際、ファンド側もそれに合わせて売買を行いますが、実際の売買には数日のタイムラグが生じることがあります。このタイミングのズレも、指数との成績差の一因になります。
為替ヘッジの有無・分配金の再投資タイミング
海外の指数に連動するファンドの場合、為替ヘッジの有無によって値動きが変わるほか、分配金を受け取ってから再投資するまでの間、その資金が市場に投資されていない「キャッシュドラッグ」と呼ばれる状態が生じることもあります。
サンプリング運用(指数構成銘柄をすべて保有しない場合)
指数の構成銘柄数が非常に多い場合、運用コストを抑えるために代表的な銘柄だけを組み合わせて指数に近い値動きを再現する「サンプリング運用」という手法が使われることがあります。この場合、完全法(全銘柄をそのまま保有する方法)に比べてトラッキングエラーが大きくなりやすい傾向があるとされています。
トラッキングエラーはどこで確認できる?初心者向けチェック方法
「自分が検討しているファンドのトラッキングエラーはどこを見ればいいの?」という方向けに、確認方法を紹介します。
運用会社の月次レポート・交付運用報告書
多くの運用会社では、月次のファクトシートや運用報告書の中に、ベンチマークとの騰落率の比較や、リスク・リターンの実績データを掲載しています。基準価額の推移グラフに指数の推移が重ねて表示されている場合、そのズレ具合からおおまかな連動性を確認できます。
証券会社の投資信託検索ページ
主要ネット証券の投資信託詳細ページでは、「リスク・リターン」や「基準指数との比較」といった項目でトラッキングエラーに関する数値が確認できる場合があります。銘柄によって表示の有無や算出期間が異なるため、複数のファンドを比較する際は、なるべく同じ期間・条件で見比べることが大切です。
数値の目安と注意点(絶対的な合格ラインはない)
一般的には、トラッキングエラーが小さいファンドほど、指数どおりの運用に近いとされています。ただし「この数値以下なら安心」という絶対的な基準があるわけではなく、指数の種類・運用規模・為替ヘッジの有無などによっても変わってきます。あくまで同じ指数を対象とする複数のファンドを比較する際の「参考材料のひとつ」として捉えるとよいでしょう。
初心者が陥りやすい誤解・やりがちなNG行動
信託報酬の低さだけで比較して選んでしまう
信託報酬はファンド選びの重要な要素ですが、それだけで「運用の質」まで判断できるわけではありません。信託報酬が低くてもトラッキングエラーが大きい(=指数から乖離しやすい)ファンドも存在しうるため、可能であれば両方を確認する習慣をつけましょう。
「同じ指数に連動=どれも同じ成績」と思い込む
同じ指数を対象にしていても、運用会社ごとに運用手法(完全法・サンプリング運用など)や規模、コストが異なるため、実際の成績には差が生まれます。「連動対象が同じだから中身も同じ」と決めつけず、目論見書や運用報告書で実際の運用方針を確認することが大切です。
短期間の数値だけで一喜一憂してしまう
短期的にはトラッキングエラーが一時的に大きくなる局面もあります。数か月分の数値だけを見て慌てて判断するのではなく、ある程度の期間で継続的に確認する姿勢が望ましいといえます。
具体例で考える トラッキングエラーがコストに与えるイメージ
数字だけでは分かりにくいので、簡単な試算で考えてみましょう。以下はあくまで仕組みを理解するための一例であり、実際の運用成績を示すものでも、将来の成果を保証するものでもありません。
- 指数(ベンチマーク)が1年間で+10%上昇したと仮定します
- Aファンド:信託報酬0.1%・トラッキングエラーが小さく、実際のリターンが+9.9%程度だった
- Bファンド:信託報酬0.5%・サンプリング運用でトラッキングエラーがやや大きく、実際のリターンが+9.0%程度だった
このように、同じ指数に連動を目指すファンドでも、コストや運用手法の違いによって最終的なリターンに差が出ることがあります。特に長期でコツコツ積み立てる場合、この差が積み重なると無視できない金額になる可能性があるため、「信託報酬が近いなら中身も同じ」と考えず、できる範囲で運用実績も確認しておくと安心です。
よくある疑問 Q&A
Q. アクティブファンドにもトラッキングエラーはありますか? A. トラッキングエラーという言葉自体は、指数に連動を目指すパッシブ運用(インデックスファンド)を語るときに使われるのが一般的です。指数を上回る成績を目指すアクティブファンドの場合は、指数とのズレは「狙って作り出すもの」であるため、同じ意味合いでは使われません。
Q. ETFと非上場の投資信託、どちらのほうがトラッキングエラーが小さい傾向がありますか? A. 一概にはいえません。同じ指数に連動するファンドであっても、運用会社の運用手法・規模・保有銘柄の組み方によって差が生まれます。「ETFだから」「投資信託だから」という商品形態だけで判断せず、個別の運用実績を確認することをおすすめします。
Q. トラッキングエラーがゼロのファンドを選べば安心ですか? A. トラッキングエラーが小さいことは「指数に忠実に連動できている」ことを意味しますが、それは「損をしない」ことを意味するわけではありません。指数自体が下落すれば、トラッキングエラーが小さいファンドも同様に値下がりします。あくまで運用の質を測るひとつの視点として捉えましょう。
ファンド選びで押さえておきたいリスクと注意点
📰 出典:投資信託投資のリスクって何?|投資の時間(日本証券業協会)
日本証券業協会の解説にあるとおり、投資信託は元本や分配金が保証された商品ではなく、市場環境によっては投資元本を下回る「元本割れ」が生じる可能性があります。トラッキングエラーが小さいファンドであっても、指数自体が下落すれば基準価額も同様に下落します。トラッキングエラーはあくまで「指数にどれだけ忠実に連動できているか」を測る指標であり、「損をしないための指標」ではない点には注意が必要です。
また、信託報酬・運用方針・取扱商品などは変更されることがあるため、実際に検討する際は必ず運用会社や証券会社の公式サイトで最新の目論見書・運用報告書をご確認ください。
まとめ 数字の意味を理解して「納得できる」ファンド選びを
トラッキングエラーは、インデックスファンドが指数にどれだけ忠実に連動できているかを示す指標であり、ETFの市場価格と基準価額の差を表す「乖離率」とは異なる概念です。信託報酬などのコスト、構成銘柄の入れ替えタイミング、運用手法といった複数の要因によって生じるもので、数値が小さいほど「運用の質が高い」と評価される傾向にあります。
とはいえ、トラッキングエラーだけでファンドの優劣がすべて決まるわけではなく、あくまで信託報酬や純資産総額などと合わせて確認する「判断材料のひとつ」です。数字の意味を正しく理解したうえで、焦らず自分が納得できるファンド選びを進めていただければと思います。投資には元本割れのリスクが伴いますので、最終判断はご自身の責任で、無理のない範囲で行うようにしましょう。

