
「保有している株や投資信託を、元気なうちに子どもや孫に渡してあげたいんだけど、贈与税ってどれくらいかかるんだろう?」

「NISA口座に入っている分は、そのまま名義を変えて渡せたりするのかな?」
結論から言うと、株式や投資信託を生前贈与する場合も、現金の贈与と同じように贈与税の対象になります。年間110万円までの贈与であれば贈与税がかからない「暦年課税」の基礎控除の範囲内で少しずつ渡していく方法と、まとまった金額を早めに渡せる代わりに将来の相続税と一体で精算する「相続時精算課税制度」を選ぶ方法の、大きく2つの選択肢があります。また、NISA口座で保有している株式・投資信託は、そのままの形では贈与できないという制度上の制約もあります。この記事では、初心者向けに株式・投資信託の生前贈与にまつわる税金の基本と、実際に検討する際の注意点を整理します。
※ 本記事は2026年8月時点の制度・情報に基づく一般的な解説です。贈与税・相続税の制度は改正されることがあり、実際の手続きや金額の判断は必ず国税庁の公式情報および税理士等の専門家にご確認ください。本記事は特定の贈与方法や金融商品を推奨するものではありません。
なぜ株式・投資信託の生前贈与を考える人がいるのか
現金ではなく、あえて株式や投資信託のまま子どもや孫に渡したいと考える背景には、いくつかの動機が挙げられます。
- 保有している株式・投資信託に値上がり益(含み益)が出ており、売却して現金化するタイミングに迷っている
- 子どもや孫に、早いうちから「自分名義の資産を持つ経験」をしてもらいたい
- 将来の相続財産をあらかじめ減らしておくことで、相続時の手続きや税負担を見据えて準備しておきたい
一方で、「贈与」は現金であっても株式であっても、税制上は同じ「贈与税」というルールの対象になります。まずはこの基本の仕組みを理解しておくことが、生前贈与を検討するうえでの出発点になります。
贈与税の基本 2つの課税方式を理解する
贈与税は、個人から財産をもらった人(受贈者)に対してかかる税金です。現金だけでなく、株式・投資信託の口数も「財産」として評価され、贈与を受けた時点の時価をもとに課税対象になります。贈与税の課税方式には、次の2種類があります。
1. 暦年課税(通常の贈与税の仕組み)
1年間(1月1日〜12月31日)に1人が受け取った贈与財産の合計額が110万円以下であれば、贈与税はかかりません。この110万円は「もらう側」1人あたりの基礎控除額であり、贈与する側の人数にかかわらず、受贈者ごとに毎年適用されます。110万円を超えた部分については、超えた金額に応じて贈与税率が段階的に上がっていく仕組みです。
2. 相続時精算課税制度
原則60歳以上の父母・祖父母から、18歳以上の子・孫への贈与について選択できる制度です。年110万円の基礎控除(2024年以降の贈与から適用)に加えて、2,500万円までの特別控除枠があり、この範囲内であれば贈与税はかかりません。特別控除を超えた部分には一律20%の税率がかかります。ただし、この制度で贈与した財産は、将来その贈与者が亡くなったときに相続財産に加算され、相続税として精算される仕組みになっている点が大きな特徴です。つまり「贈与税を安くする制度」というより、「贈与税と相続税をまとめて精算するタイミングを調整できる制度」という理解が近いといえます。
なお、暦年課税と相続時精算課税は、同じ贈与者からの贈与について併用できません。一度相続時精算課税を選択すると、その贈与者からの贈与については、その後ずっと暦年課税に戻すことができない点にも注意が必要です。
暦年贈与と相続税の「持ち戻し」ルールにも注意
暦年課税で毎年110万円以内の贈与を続けていても、贈与した人が亡くなった際、死亡前の一定期間内の贈与は相続財産に加算(持ち戻し)される制度があります。この加算期間は制度改正により段階的に延長されており、経過措置を伴いながら見直しが進んでいます。具体的な加算期間や計算方法は改正時期によって異なるため、暦年贈与を相続対策として考える場合は、現時点の正確なルールを税理士や国税庁の公式情報で確認することを強くおすすめします。
株式・投資信託ならではの注意点
現金の贈与と比べて、株式・投資信続の贈与には特有の論点がいくつかあります。
- 評価額の考え方:上場株式や投資信託は、贈与を受けた日の時価(終値等)をもとに評価額が決まります。日々値動きするため、同じ株数を贈与しても、贈与するタイミングによって評価額(=贈与税の計算のもとになる金額)が変わります
- 口座の準備が必要:証券会社を通じて株式・投資信託を贈与するには、贈与を受ける側(子や孫)がその証券会社に自分名義の口座を持っている必要があります。未成年の場合は未成年口座の開設が必要になるなど、証券会社ごとに手続きが異なります
- 贈与契約書の作成が望ましい:「誰が・いつ・何を・どれだけ」贈与したかが後から分かるよう、贈与の都度、贈与契約書を作成しておくことが一般的に推奨されています。口約束だけの贈与は、税務調査等の際に贈与の事実そのものを否認されるリスクがあるためです
- 移管手数料がかかる場合がある:株式・投資信続を別人名義の口座に移す際、証券会社によっては銘柄ごとに移管手数料が発生することがあります。事前に取引中の証券会社へ確認しておくと安心です
- NISA口座の資産はそのままでは贈与できない:NISA口座で保有している株式・投資信託は、贈与先のNISA口座へそのまま移すことはできない仕組みになっています。贈与する側がNISA口座の資産をいったん課税口座(特定口座・一般口座)に移す、または売却してから贈与する必要があり、受け取る側も原則として課税口座で受け取ることになります。制度の詳細や最新の取り扱いは、利用している証券会社や日本証券業協会の公式情報で確認してください
解決策・考え方 生前贈与を検討する際の進め方
株式・投資信託の生前贈与を検討する際に、押さえておきたい考え方を整理します。
- 「非課税だから得」という発想だけで判断しない:110万円の基礎控除内で贈与できたとしても、贈与を受けた株式・投資信託自体は今後も値動きします。贈与すれば必ず資産が増えるという話ではなく、元本割れのリスクは贈与後も受贈者側に残ります
- 暦年課税か相続時精算課税か、家庭の状況に合わせて考える:少額をコツコツ長期間かけて贈与したいのか、まとまった金額を早めに渡したいのかによって、向いている制度は異なります。どちらが有利かは資産状況や将来の見込みによって変わるため、一般論だけで即断せず、税理士等の専門家に相談しながら検討することをおすすめします
- 贈与する側の生活資金を優先する:老後の生活費や医療費など、贈与する本人に必要な資金まで削って贈与してしまうと、本末転倒になりかねません。あくまで余剰資金の範囲で検討することが大切です
- 受贈者(子・孫)にもリスクを説明する:株式・投資信託は元本保証のある金融商品ではありません。贈与を受ける側にも、「価格が変動する資産である」ことをきちんと伝えたうえで渡すことが望ましいといえます
- 手続きの詳細は証券会社に確認する:必要書類や移管手数料、未成年口座の開設要件などは証券会社によって異なります。実際に贈与を検討する段階になったら、利用中の証券会社の窓口やコールセンターに具体的な手続きを確認しましょう
実践する際の注意点・リスク
- 毎年同じ時期に同じ金額を機械的に贈与し続けると、「実質的に最初から多額の贈与を分割して行っていた」とみなされ、まとめて課税される可能性が指摘されることがあります。贈与のたびに契約書を作成するなど、その都度の贈与である実態を残しておくことが大切です
- 贈与税の申告が必要なケース(基礎控除を超える贈与を受けた場合や、相続時精算課税を選択する場合など)で申告を怠ると、加算税や延滞税の対象になる可能性があります
- 「相続税対策になる」という情報だけを鵜呑みにして、家族の合意がないまま一方的に贈与を進めてしまうと、後の相続でかえってトラブルの原因になることもあります
- 税金の判断を誤ると追加の納税が発生する可能性があるため、金額が大きくなる場合や制度選択に迷う場合は、必ず税理士や税務署に事前相談することをおすすめします
まとめ 「贈与すれば得」ではなく、制度を理解したうえで検討を
株式・投資信託の生前贈与は、暦年課税の基礎控除(年110万円)を使ってコツコツ渡す方法と、相続時精算課税制度を使ってまとまった金額を早めに渡す方法の、大きく2つの選択肢があります。どちらも一長一短があり、家庭の状況や将来の相続まで見据えて検討する必要がある、決して単純な話ではありません。
また、NISA口座の資産はそのままでは贈与できないなど、株式・投資信託ならではの制度上の制約もあります。「税金がお得だから」という理由だけで急いで贈与を進めるのではなく、まずは家族で話し合い、必要であれば税理士等の専門家に相談しながら、無理のない形で検討することが大切です。制度・税率は改正されることがあるため、実際に贈与を行う際は必ず国税庁の最新情報や税務署、税理士に確認してください。
本記事は情報提供を目的としたものであり、特定の贈与方法・金融商品の購入や運用を推奨するものではありません。株式・投資信託は価格変動により元本割れするリスクがあります。税務上の最終判断は、必ずご自身の責任で、税理士や税務署などの専門家に確認のうえ行ってください。

