
「株価が下がって含み損を抱えたまま、ずっと塩漬けにしてる銘柄があるんだよね…」

「損してるのに、何もできることってないのかな?」
結論から言うと、特定口座(源泉徴収あり・なし)などの課税口座で保有している株や投資信託に含み損がある場合、それをあえて売って損失を確定させ、同じ年に出ている利益と相殺することで、その年の税負担を抑えられる可能性があります。これを一般に「損出し」と呼びます。ただし、これは節税の一手法であって「必ず得をする」ものではなく、やり方を間違えると効果が薄れたり、そもそも投資方針とちぐはぐな売買になってしまうこともあります。この記事では、損出しの基本的な仕組みと、初心者が知っておきたい実務上の注意点を整理します。
※ 本記事は2026年8月時点の制度・情報をもとにした一般的な解説であり、個別の税務判断を助言するものではありません。実際の手続きにあたっては、国税庁や利用している証券会社の公式情報、税理士に必ず確認してください。また、本記事は特定の銘柄の売買を勧めるものではなく、最終的な投資判断はご自身の責任で行ってください。
そもそも「損出し」とは?含み損をあえて確定させる仕組み
損益通算の基本をおさらい
上場株式等を売却して損失(譲渡損失)が出た場合、同じ年に得た株式等の売却益や、申告分離課税を選んだ配当・分配金と相殺できる「損益通算」という仕組みがあります。
📰 出典:国税庁「No.1474 上場株式等に係る譲渡損失の損益通算及び繰越控除」
「損出し」は、この損益通算の仕組みを踏まえて、含み損を抱えたまま放置している銘柄を意図的に売却し、損失を「確定」させる行動を指す一般的な呼び方です。売らずに含み損のままにしていると、その損失は税金の計算上は「まだ存在しないもの」として扱われ、その年の利益と相殺することはできません。
なぜ「あえて売る」必要があるのか
例えば、今年すでに別の銘柄の売却で利益が出ている場合、その利益にはそのまま税金(原則20.315%)がかかります。一方で、含み損を抱えている銘柄を年内に売却して損失を確定できれば、その損失分を利益と相殺し、課税対象となる所得を減らせる可能性があります。「利益はそのまま、損は塩漬け」という状態だと、使えるはずの相殺のチャンスを逃してしまう、という考え方です。
架空の数値例で考えるイメージ
あくまで理解を助けるための架空の一例です(将来の結果や節税効果を保証するものではありません)。
- 今年、A銘柄の売却で30万円の利益が出ている
- 一方で、B投資信託には20万円の含み損がある
このままだと、30万円の利益に対して税金がかかります。ここでB投資信託を売却して20万円の損失を確定させると、30万円の利益と相殺され、課税対象となる利益は10万円まで圧縮される可能性がある、というイメージです(実際の税額計算は口座の種類や他の損益によって変わります)。数字はあくまで仕組みを理解するための一例であり、必ずこの通りになるわけではありません。
損出しが向いている人・そうでない人
損出しは誰にとっても効果があるわけではありません。判断材料の一つとして、次のような視点で考えてみるとよいでしょう。
検討する余地がある人
- 今年すでに株式等の売却益や、申告分離課税を選んだ配当・分配金がある人
- 保有し続けても「値上がりを期待していない」「投資方針が変わり手放したい」と考えている銘柄に含み損がある人
- 複数の証券口座を使っており、損益をまたいで相殺したいと考えている人
無理に行う必要はない人
- 今年、相殺できるような利益がそもそもない人(この場合は損出しをしても、その年は相殺効果がなく、翌年以降への繰越控除を検討することになります)
- 長期的に持ち続けたい・値上がりを期待している銘柄しか含み損を抱えていない人(税金のためだけに手放すと、その後の値上がり益を逃す可能性もあります)
- 売買手数料や手間を考えると、相殺できる税額が小さく割に合わない人
損出しの具体的な流れ 5ステップ
1. 今年の実現損益(利益)を確認する
まず、特定口座の年間取引報告書や証券会社の取引履歴で、その年にすでに確定している売却益・配当等の金額を確認します。相殺できる利益がなければ、損出しをしても翌年以降への繰越控除を視野に入れることになります。
2. 含み損を抱えている保有銘柄を洗い出す
保有銘柄のうち、取得価額より時価が下回っている(含み損がある)ものをリストアップします。この時点では「売る・売らない」はまだ決めず、あくまで現状把握です。
3. 年内に受け渡しが完了する期限を確認する
税金の計算上、売買の年は原則として「受渡日」を基準に判定されます。日本の株式取引は約定日から起算して2営業日後に受け渡しが行われる仕組み(いわゆるT+2)になっているため、大納会(その年最後の取引日)ぎりぎりに注文を出すと、受け渡しが年明けにずれ込み、その年の損益通算に間に合わない可能性があります。
📰 出典:日本証券業協会「株式等の決済期間(T+2)について」
2026年の大納会は12月30日(水)が予定されていますが、具体的な最終約定日の目安は年によって異なり、証券取引所や各証券会社が毎年案内を出しています。
📰 出典:日本取引所グループ「2025年大納会・2026年大発会について」
年末ぎりぎりに慌てて行動すると期限を逃しやすいため、余裕を持って早めに確認しておくことをおすすめします。
4. 売却する銘柄・株数を検討し、注文を出す
相殺したい利益額や、今後もその銘柄を持ち続けたいかどうかを踏まえて、売却する銘柄・株数を決めます。ここで大切なのは「税金を減らしたいから」という理由だけで、本来は長期で持ち続けたい優良銘柄まで売ってしまわないことです。損出しはあくまで税負担を調整する一つの手段であり、投資方針そのものを歪めてしまっては本末転倒です。
5. 買い戻すかどうかを検討する
損失を確定させたあとも、その銘柄を引き続き保有したい場合は「買い戻し」を検討する人もいます。ただしここには注意点があります。
買い戻す場合に特に注意したいポイント
同じ日に買い戻すと取得価額が平均化されてしまう
特定口座では、同一日に同一銘柄を売って買い戻すと、その日の売買が「平均取得単価」の計算に含まれる場合があります。その結果、実際に買い戻した価格よりも取得価額が高く計算され、想定していたほど損失額が確定しない、というケースが起こり得ます。損出しの効果をきちんと得たい場合は、売却と買い戻しを同一日にせず、翌営業日以降に分けるのが基本的な考え方とされています。
買い戻すまでの間に株価が変動するリスク
売却してから買い戻すまでの間に株価が上昇すれば、より高い価格で買い直すことになり、結果的に税金の節約分以上のコストがかかることもあります。逆に株価がさらに下落すれば、買い戻しのタイミングとしては有利になる可能性もありますが、これは誰にも事前には分かりません。「税金を抑えるための売買」自体にも、通常の株式投資と同じ値動きのリスクが伴う、という点は忘れないようにしましょう。
そのほか知っておきたい注意点
- NISA口座の損失は対象外:NISA口座内で売却して生じた損失は、そもそも損益通算・繰越控除の対象になりません。損出しは課税口座(特定口座・一般口座)での売買が前提です。
- 複数の証券口座を使っている場合は確定申告が必要になることがある:ある証券会社では利益、別の証券会社では損失が出ている場合、口座間で自動的に相殺されるわけではなく、損益通算するには確定申告が必要です。
- 相殺しきれなかった損失は繰越控除の対象になり得るが、連続した確定申告が必要:損益通算してもなお残る損失は、翌年以後3年間、確定申告を続けることで繰り越せるとされています。途中で申告を忘れると、その時点で繰り越しが途切れる可能性があります。
- 売買のたびに手数料がかかる:証券会社によっては売買手数料が発生します。相殺できる税額とコストのバランスも考慮しましょう。
- 税制は変わることがある:税率や制度の細部は将来変更される可能性があります。本記事の内容は2026年8月時点のものであり、実際に手続きを行う際は国税庁や証券会社の最新の公式情報を必ず確認してください。
- 投資信託の分配金や外国株の配当にも別のルールがある場合がある:商品の種類や口座の設定(申告分離課税を選択しているかなど)によって扱いが異なることがあります。不明な点は利用している証券会社のサポート窓口や税理士に確認しましょう。
よくある疑問
「特定口座(源泉徴収あり)」を使っていれば、何もしなくても自動的に相殺されますか?
同じ証券会社の同じ特定口座内であれば、年間の利益と損失は証券会社側で自動的に計算・相殺してくれます。ただし、複数の証券会社に口座を持っていて口座をまたいで相殺したい場合や、相殺しきれなかった損失を翌年以降に繰り越したい場合は、口座の種類にかかわらず確定申告が必要になるとされています。「源泉徴収ありだから確定申告は一切不要」と思い込んでいると、使えるはずの制度を使い損ねる可能性がある点は、初心者がつまずきやすいポイントです。
損出し専用の特別な手続きはありますか?
いいえ、特別な申請や手続きが必要なわけではありません。通常の株式・投資信託の売却注文を出し、必要に応じて確定申告をするだけです。「損出し」という言葉自体は、含み損を確定させて損益通算に活用する行動を指す通称であり、制度上の正式名称ではありません。
いつ行うのが一般的ですか?
損益通算は暦年(1月1日〜12月31日)単位で計算されるため、年末にかけて「今年の利益と、今持っている含み損のバランス」を見直す文脈で話題になることが多いです。ただし、投資方針の見直しに合わせて年の途中で行っても仕組み自体は同じです。
まとめ 損出しは「使えるルールを知っておく」ための知識
損出しは、含み損を抱えた銘柄を年内に売却して損失を確定させ、その年の利益と相殺することで税負担を抑える一つの方法です。ただし「必ず得をする」「誰にでもおすすめ」というものではなく、受渡日の期限や買い戻し時の取得価額の計算など、実務上の細かいルールを理解しておく必要があります。
何より大切なのは、税金の調整はあくまで投資全体の一部の話であり、長期・分散・積立という資産形成の基本方針を崩してまで無理に売買することではない、という点です。損出しを検討する際は、まず自分の年間の損益状況を確認したうえで、必要であれば証券会社や税理士に相談しながら進めることをおすすめします。
投資である以上、株式にも投資信託にも価格変動による元本割れのリスクは常にあります。「損出しをすれば必ず得をする」という単純な話ではなく、あくまで税金の計算ルールの一つを正しく知っておくことで、無駄な機会損失を減らせる可能性がある、という位置づけで捉えるとよいでしょう。焦って売買するのではなく、余裕を持って情報を確認し、自分の投資方針と照らし合わせながら、無理のない範囲で判断してください。

