
「もう60代だし、今からNISAを始めても意味がないんじゃないか…」

「周りは『非課税でお得』って言うけど、この歳から投資を始めるのは怖い」
結論から言うと、60代からNISAを始めること自体は「遅すぎる」ということはありません。ただし、20代・30代の「積立を続けて何十年もかけて増やす」前提とは、時間軸もリスクの取り方も変えて考える必要があります。この記事では、年金世代・シニア世代がNISAを検討する際に押さえておきたい考え方を、初心者向けに整理します。
※本記事は情報提供を目的としたものであり、特定の金融商品の購入・売却を推奨するものではありません。投資は自己責任で、余剰資金の範囲で行ってください。制度内容は変わることがあるため、最新情報は金融庁・各証券会社の公式サイトでご確認ください。
なぜ「60代から投資は遅い」と感じてしまうのか
投資の話でよく語られるのは「若いうちから始めて複利で長期的に増やす」というモデルです。このイメージが強いため、60代・年金世代の方が「もう自分には関係ない」と感じてしまうのは自然なことです。
しかし、60代であっても平均的な余命を踏まえれば、資産を運用する期間は決して短くありません。総務省統計局や厚生労働省の統計でも、60代の平均余命は男女とも20年前後とされています(※年度により数値は変動するため最新は公的統計をご確認ください)。「複利で増やす時間」は限られても、「インフレから資産の実質的な価値を守る」「取り崩しながら運用を続ける」という目的であれば、60代からでも投資を検討する意味は十分にあります。
大切なのは、「増やす投資」だけでなく「守りながら使う投資」という視点も持つことです。
現役世代とシニア世代では、投資の前提が変わる
同じNISAという制度を使う場合でも、現役世代とシニア世代では意識するポイントが異なります。ざっくりと整理すると、次のような違いがあります(あくまで一般的な傾向であり、個々の状況によって最適な考え方は異なります)。
- 主な目的:現役世代は「将来に向けて資産を増やす」こと、シニア世代は「資産の実質的な価値を守りつつ、必要に応じて使う」ことが中心になりやすい
- 資金の性格:現役世代は「これから積み立てていく資金」が中心、シニア世代は「すでにまとまった資産(退職金・貯蓄)」がある場合が多い
- 時間軸:現役世代は数十年単位で考えやすい一方、シニア世代は運用と取り崩しを並行して考える必要がある
- 値動きへの向き合い方:現役世代は下落局面も「安く買えるタイミング」と捉えやすいが、シニア世代は下落局面が取り崩し時期と重なるリスクを意識する必要がある
- 資産配分の考え方:現役世代は株式中心でも回復を待つ余地を取りやすいが、シニア世代は値動きの荒さを抑えた分散を軸に考えることが多い
上記はあくまで一般的な傾向を示したものであり、資産状況や家族構成、リスク許容度は人によって大きく異なります。ご自身の状況に当てはめて考える際の参考程度にとどめてください。
60代からNISAを検討する際の5つの考え方
1. 「積立で増やす」より「守りながら使う」発想に切り替える
現役世代のNISA活用は「毎月コツコツ積み立てて、将来大きく増やす」ことが中心になりがちです。一方で60代からは、退職金や貯蓄など、すでにまとまった資産を持っているケースも多いはずです。
その場合は、「ゼロから増やす」よりも「インフレで目減りしないように、資産の一部を運用に回す」「必要な生活費は確保したうえで、余剰資金だけをNISAで運用する」という発想のほうが現実的です。全資産を一気に投資に回すのではなく、当面の生活費・医療費などは現金や預貯金で確保し、その上で余裕のある部分を検討するのが基本になります。
2. 値動きの荒い商品より、値動きが比較的穏やかな商品を軸に考える
一般的に、株式は保有期間が長いほど値動きのブレが平準化されやすいと言われますが、60代からの運用期間は現役世代より短くなる可能性があります。そのため、値動きの荒い個別株やハイリスクな商品に資産を集中させるのではなく、国内外の株式・債券などに分散されたインデックス型の投資信託を軸に検討する、という考え方が一つの目安になります。
どの商品を選ぶかは資産状況やリスク許容度によって人それぞれ異なるため、「これが正解」という断定はできません。証券会社や金融機関の窓口、ファイナンシャルプランナー(FP)などに相談しながら、自分に合った商品を選ぶことをおすすめします。
3. 「取り崩し方」も始める前に考えておく
現役世代のNISAは「積み立てるフェーズ」が中心の話題になりがちですが、60代からは「いつ、どのくらい取り崩すか」も同時に考えておく必要があります。
取り崩し方には、毎月一定額を引き出す「定額取り崩し」と、資産残高に対して一定の割合を引き出す「定率取り崩し」などの方法があります。定額の場合は生活費が計算しやすい一方、相場が下がっている局面で多く取り崩すと資産の減りが早まりやすい、定率の場合は資産が減れば取り崩し額も減るため資産寿命を延ばしやすい一方で毎月の受取額が変動する、といった特徴があります。どちらが良いかは家計の状況次第であり、一律の正解はありません。
4. NISAの非課税保有期間は無期限だが、生涯投資枠には上限がある
現行制度(新NISA)では、非課税で保有できる期間に期限はなく、口座開設可能年齢であれば年齢の上限もありません。ただし、生涯にわたって非課税枠として使える投資元本の上限(生涯投資枠)は決まっています。つみたて投資枠・成長投資枠それぞれの年間の上限額や生涯投資枠の金額は、執筆時点(2026年8月)の制度に基づくものであり、今後見直される可能性もあるため、実際に始める際は金融庁や利用予定の証券会社の公式サイトで最新情報を確認してください。
📰 出典:金融庁「NISAを知る」
5. 相続・資産承継の視点も持っておく
60代からの資産形成では、「自分が使う資産」だけでなく「将来、家族に引き継ぐ可能性がある資産」という視点も出てきます。NISA口座で保有する資産も、相続が発生した場合は相続財産として扱われ、相続税評価や名義変更などの手続きが必要になります。細かい税務の取り扱いは個々の状況によって異なるため、必要に応じて税理士や金融機関に確認しながら進めるのが安心です。
NISAとiDeCo、60代から使うならどちらを優先すべき?
現役世代向けの記事では「NISAとiDeCo、どちらを優先すべきか」がよく話題になりますが、60代から検討する場合はこの2つの制度の性質の違いに注意が必要です。
iDeCo(個人型確定拠出年金)は、加入できる年齢に上限が設けられているほか、原則として60歳(制度改正により65歳などに広がる場合もあります)まで資産を引き出せない「引き出し制限」がある点が大きな特徴です。年齢や資産の使いみちによっては、この引き出し制限がネックになるケースもあります。
一方でNISAは、口座開設可能な年齢であれば年齢の上限がなく、必要になったタイミングで比較的自由に引き出せる点が特徴です。「近い将来、資産の一部を使う可能性がある」というシニア世代にとっては、iDeCoよりもNISAのほうが柔軟に使いやすい、という声もあります。
どちらの制度を、どの程度利用すべきかは、年齢・収入状況(在職中か年金受給のみか)・引き出し時期の見通しによって変わってきます。制度の詳細な加入条件や税制メリットは変更されることがあるため、実際に検討する際は金融機関や税理士、または公式情報で最新の条件を確認してください。
こんな資金は投資に回さないほうがよい
60代からNISAを検討する際は、「どの資金を投資に回すか」の見極めも重要です。次のような資金は、値動きのある商品での運用には向いていません。
- 当面の生活費(数ヶ月〜1年分程度の生活防衛資金):急な出費や年金の受給開始時期のズレなどに備え、現金・預貯金で確保しておきたい資金です。
- 数年以内に使う予定が決まっている資金:住み替え費用、車の買い替え費用、家族のイベント費用など、使う時期が近い資金は、値下がりのタイミングと重なるリスクを避けるため、投資に回さないほうが無難です。
- 医療費・介護費用として見込んでいる資金:年齢が上がるほど医療・介護にかかる費用は増えやすい傾向にあります。将来の必要額を見積もった上で、その分は確保しておくことが大切です。
60代からの投資でやってはいけないNG行動
- 退職金や老後資金の大部分を一括で値動きの荒い商品に投じる:短期間で大きな含み損を抱えると、取り崩し始める時期の資産額に直接影響します。
- 「もう時間がないから」と焦って高いリターンをうたう商品に飛びつく:年齢を問わず、「必ず儲かる」「元本保証」をうたう金融商品は存在しません。うまい話には注意してください。
- 生活防衛資金まで投資に回してしまう:急な医療費や介護費用など、想定外の出費に備えた現金は必ず手元に残しておきましょう。
- 一度決めた方針を、短期の値動きのニュースだけで頻繁に変えてしまう:一時的な下落のたびに売買を繰り返すと、手数料や税負担がかさみ、かえって非効率になりがちです。
始める前に確認しておきたいチェックリスト
いきなり大きな金額を動かすのではなく、次のような点を一つずつ確認しながら進めると、無理のないスタートを切りやすくなります。
- 当面の生活費・医療費・介護費用として、現金でいくら確保しておくか決めたか
- そのうえで、投資に回せる「余剰資金」がどのくらいあるか把握したか
- 値動きの荒い商品ではなく、分散された商品を軸に検討しているか
- いつ頃から、どのくらいのペースで取り崩す可能性があるか、大まかにイメージしているか
- 資産を引き継ぐ家族がいる場合、相続時の取り扱いについても頭の片隅に置いているか
- 不明な点は自己判断せず、金融機関の窓口やファイナンシャルプランナー、税理士など専門家に相談する準備があるか
一つでも「まだ整理できていない」という項目があれば、焦って商品選びから始めるのではなく、まずはそこから整理していくことをおすすめします。
まとめ 焦らず、自分の生活設計に合わせて考える
60代からNISAを始めることは「遅すぎる」わけではありませんが、現役世代とは前提が異なります。「大きく増やす」ことよりも「生活費を確保したうえで、余剰資金をインフレから守りながら、無理のない範囲で運用する」という視点を持つことが大切です。
値動きには元本割れのリスクが伴いますし、取り崩し方や商品選びは家計の状況によって最適解が変わります。不安な場合は、独学で判断するのではなく、金融機関の窓口やファイナンシャルプランナーなど専門家にも相談しながら、自分と家族の生活設計に合った形で検討してみてください。

