
「世界最大のビットコイン保有企業が『絶対に売らない』って言ってたのに、売却したってニュースを見たんだけど…」

「著名な経営者が”信念”として語っていたことでも、状況によっては変わることがあるんだね」
結論から言うと、ビットコインを世界で最も多く保有する米国の上場企業「ストラテジー(Strategy、旧マイクロストラテジー)」が、2026年7月末から8月上旬にかけて2週連続でビットコインを売却したと複数のメディアで報じられています。同社のマイケル・セイラー会長は長年「ビットコインは絶対に売らない」という姿勢を象徴的に語ってきた人物として知られていますが、今回の売却は取得原価を下回る水準で行われ、優先株の配当支払いや買い戻しに充てられたと伝えられています。この記事では、報じられている事実関係を整理したうえで、「著名な投資家・企業の”信念”」と「上場企業としての”資本政策”」を分けて捉える視点を、筆者の私見を交えながら考えていきます。
※本記事は2026年8月11日時点で確認できた報道をもとに執筆しており、特定の暗号資産の売買を推奨するものではありません。暗号資産は価格変動が非常に大きく、投資は自己責任で、余剰資金の範囲で行ってください。
ニュースの要点整理 2週連続のビットコイン売却、取得原価を下回る水準で
まずは、報じられている事実関係を客観的に整理します。
📰 出典:「1サトシも売らない」と主張のセイラー、取得原価割れで約165億円のビットコインを売却|Forbes JAPAN(Yahoo!ニュース)
Forbes JAPANの報道によると、セイラー氏は2026年8月3日にSNS(X)で「自分自身は1サトシ(ビットコインの最小単位)も売らない」という趣旨の投稿を行い、ストラテジー社は自身の個人資産とは別の上場企業であると説明したとされています。ところが同じ日に同社が米証券取引委員会(SEC)へ提出した開示資料により、7月27日から8月2日にかけて1,638BTCを平均6万3,957ドルで売却し、約1億473万ドル(約165億円)を調達していたことが明らかになりました。この売却価格は、同社の平均取得原価(約7万5,419ドル)を1割超下回る水準だったと報じられています。
📰 出典:ストラテジー、ビットコイン170億円相当売却 優先株の買い戻しに充当|コインポスト
コインポストの報道によれば、ストラテジー社はその翌週にあたる8月3日から9日にかけても売却を継続し、約1,690BTCを平均6万4,262ドルで売却、約1億860万ドル(約170億円)を調達したとされています。これは2週連続の売却となり、いずれも同社が発行する優先株「STRC」の配当資金や買い戻しに充てられたと伝えられています。
📰 出典:ストラテジー、ビットコイン約1億500万ドル相当を追加売却|Bloomberg
Bloombergも同様に、ストラテジー社が保有するビットコインの一部を追加売却したと報じており、同社が2026年6月末ごろに取締役会で承認したとされる「ビットコイン収益化プログラム(Bitcoin Monetization Program)」に基づく売却である点を伝えています。このプログラムは、経営陣が有利と判断したタイミングでビットコインを売却し、ドル準備金の積み増しや優先株関連の支払いに充てられるよう設計された枠組みで、売却を義務付けるものではないと説明されているようです。
事実として報じられている内容の整理
ここまでの報道内容を整理すると、次のような事実関係が見えてきます。
- ストラテジー社は7月27日〜8月9日の2週にわたり、合計3,300BTC超を売却したと報じられている
- 売却価格は同社の平均取得原価を下回る水準で、いわゆる「含み損」を実現させる形の売却だったとされる
- 売却資金は主に優先株の配当支払い・買い戻しに充当されたと伝えられている
- 売却は2026年6月末ごろに承認されたとされる「ビットコイン収益化プログラム」に基づくものであり、経営陣の裁量による措置と位置づけられている
これらはいずれも報道内容に基づく事実整理であり、以下は筆者個人の見方・考察です。事実と意見は分けてお読みください。
筆者の私見・考察 「個人の信念」と「上場企業の資本政策」は別のレイヤーにある
セイラー氏個人が長年発信してきた「ビットコインは売らない」というメッセージは、ビットコインを長期保有する投資家層の間で象徴的な言葉として広く知られてきました。一方で、ストラテジー社は株主・優先株主を抱える上場企業であり、配当や資金繰りといった経営上の義務を負っています。今回の一連の報道を見て筆者が感じるのは、「創業者・経営者個人の信念」と「上場企業としての資本政策上の意思決定」は、必ずしも同じ結論に至るとは限らないレイヤーの異なる話だという点です。
優先株は、普通株と異なり配当の支払いが契約上の約束に近い性質を持つことが一般的です。仮に配当原資が不足すれば、企業の信用力に関わる問題になりかねません。今回のケースでは、ビットコイン価格が取得原価を下回る局面であっても、配当・買い戻しという「待ったなしの資金需要」を優先し、含み損を実現させてでも売却する判断が取られたように見えます。これは、值上がりを前提にした強気の姿勢と、実際の資金繰りという現実的な制約が衝突したときに、後者が優先されうることを示す一例のように筆者には映ります。
もっとも、この売却が今後も継続するのか、一時的な資金調達にとどまるのかは、現時点の報道だけでは断定できません。同社が保有するビットコインは依然として数十万BTC規模と報じられており、今回の売却分は保有全体からすればごく一部です。「大口保有者が売り始めた=相場の先行きが弱い」といった短絡的な結び付けをすることも、逆に「一時的な調整に過ぎない」と決めつけることも、いずれも根拠のない断定になってしまう点には注意が必要だと考えます。
資産形成への発展 “揺るがない信念”を投資判断の根拠にしない
このニュースから、資産形成の観点で得られる学びを考えてみます。
まず一つ目は、著名な経営者・インフルエンサーが発信する強い言葉を、そのまま自分の投資判断の根拠にしないことです。「絶対に売らない」といった発言は、その人・その企業が置かれた状況(資金力、負債構造、事業内容)を前提にしたものであり、状況が変われば行動も変わりえます。個人投資家が同じ言葉を鵜呑みにして「自分も絶対に売らない」と決め打ちしてしまうと、本来自分自身の生活設計に応じて見直すべきタイミングを逃してしまうおそれがあります。
二つ目は、「配当」「返済」など支払い義務のある資金計画は、資産価格の変動と衝突したときに強制的な売却につながりうる、という構造の理解です。これは暗号資産に限らず、信用取引の追加保証金(追証)や、住宅ローンの返済なども同じ構造を持ちます。自分自身の資産運用においても、借入や信用取引を利用している場合は、価格が下がった局面で「売りたくないのに売らざるを得ない」状況に陥っていないか、日頃から点検しておく価値があります。
三つ目は、一つの資産・一つの銘柄への集中を避け、余剰資金の範囲で運用するという基本方針の再確認です。今回のストラテジー社のように、事業の中核をビットコイン一資産に大きく依存させる経営スタイルは、価格変動時の資金繰りに直結しやすい構造だと言えます。個人の資産形成においても、特定の資産・特定の企業の動向に家計全体が左右されすぎないよう、株式・投資信託・預金・暗号資産といった複数の資産に分散し、それぞれ生活に必要な資金とは切り離した余剰資金で運用することが、値動きに振り回されないための土台になります。
具体的なアクション・心構え 大口投資家のニュースとどう付き合うか
著名な投資家・企業の動向がニュースになったとき、初心者の方に意識してほしい心構えを整理します。
- 発言と実際の行動を分けて確認する:「売らない」という発言だけでなく、開示資料など客観的な事実に基づく報道もあわせて確認する習慣を持ちましょう
- 大口保有者の売買を、自分の売買シグナルにしない:著名投資家が売った・買ったというニュースだけを根拠に、自分も同じ方向に動くのは避けましょう
- 自分の資金計画に「支払い義務」がないか点検する:信用取引やレバレッジ商品を利用している場合、価格下落時に強制的な売却(追証・ロスカット)が発生する条件を事前に確認しておきましょう
- 余剰資金の範囲を超えていないか見直す:暗号資産に限らず、生活費や近い将来に使う予定のあるお金を投資に回していないか、この機会に確認しておくと安心です
注意点・NG行動 同じ状況で陥りやすい失敗
暗号資産に関する著名企業・著名人のニュースに接したとき、陥りやすい失敗を整理しておきます。
- 「絶対に売らない」を自分の投資ルールとして採用する:他者の信念表明を、自分自身のリスク管理の代わりにしてしまうこと
- 大口保有者の売却報道だけで慌てて売買する:背景にある資金繰りなどの事情を確認せず、値動きだけを見て反応してしまうこと
- 未登録の海外業者や、根拠不明な「必ず儲かる」といった勧誘に安易に応じる:暗号資産を保有・取引する際は、金融庁に登録された国内の暗号資産交換業者を利用することが基本です
- 税金の扱いを確認しないまま売買を繰り返す:暗号資産の売却益は原則として雑所得に区分され、確定申告が必要になる場合があります。具体的な取り扱いは国税庁の情報や税理士への確認をおすすめします
なお、本記事は特定の暗号資産・銘柄の売買を推奨するものではなく、相場の先行きについても断定的な予想はできません。暗号資産は株式以上に価格変動が大きく、取引所のハッキングや詐欺的な勧誘によって資産を失うリスクも指摘されています。投資を行う際は、必ずご自身の判断と責任のもと、余剰資金の範囲で行ってください。
まとめ 「信念」より「仕組み」を見る目を持つ
「ビットコインは絶対に売らない」という象徴的な言葉を発信してきたストラテジー社が、2週連続でビットコインを売却したという今回の報道は、著名な投資家・企業の”強気の姿勢”と、上場企業としての現実的な資金繰りが、必ずしも一致し続けるわけではないことを教えてくれる一例だと感じます。
大切なのは、誰かの「信念」や強い発言に自分の投資判断を委ねるのではなく、支払い義務のある資金計画やレバレッジの有無といった「仕組み」の面から自分自身の資産運用を点検することです。暗号資産を含め、値動きの大きい資産と向き合うときほど、長期・分散・余剰資金という基本方針を淡々と続ける姿勢が、落ち着いた資産形成につながりやすいと言えるでしょう。

