
「イーサリアムって、昔『デフレ通貨だから価値が上がり続ける』って聞いたことがあるんだけど…」

「最近は送金手数料もすごく安くなったってニュースを見たけど、それっていいことなんだよね?」
結論から言うと、「利用者にとって嬉しいニュース」が、実は投資家に語られてきた別の物語の前提を崩すきっかけになることがあります。2026年7月30日、暗号資産イーサリアムは誕生から11周年を迎えましたが、それと時を同じくして「手数料の低下によって、イーサリアムが長年掲げてきた『ウルトラサウンドマネー(超健全な貨幣)』という物語が揺らいでいる」という指摘が伝えられました。
この記事では、このニュースを入り口に、暗号資産につきものの「物語(ナラティブ)」とどう距離を取って付き合うべきか、初心者の方にも分かりやすく整理しながら、資産形成の視点から考えていきます。
※本記事は情報提供を目的としており、特定の暗号資産の購入・売却を推奨するものではありません。投資は自己責任で、必ず余剰資金の範囲で行ってください。
ニュースの要点整理 イーサリアム11周年と「ウルトラサウンドマネー」とは
まずは事実関係を、筆者の意見を交えずに整理します。
そもそも「ウルトラサウンドマネー」とは何か
- 2021年8月に導入されたイーサリアムのアップグレード「EIP-1559」により、ネットワーク上で取引をするたびに支払われる手数料(ガス代)の一部が「バーン(焼却)」され、二度と流通しなくなる仕組みが組み込まれました。
- ネットワークの利用が活発でバーンされる量が新規発行量を上回ると、市場に出回るETHの総量そのものが減っていく「デフレ資産」になり得ます。この特徴を指して、一部の投資家・コミュニティの間では「ウルトラサウンドマネー(超健全な貨幣)」と呼ばれ、価値が持続的に高まっていく根拠のひとつとして語られてきました。
📰 出典:CRYPTO TIMES「イーサリアム11周年、手数料減で『ウルトラサウンドマネー』に揺らぎ」
11周年に指摘された「揺らぎ」の中身
- イーサリアムの最初の10年は、2016年の「DAO事件」(大規模なハッキング被害を受け、コミュニティが分裂した出来事)を乗り越え、2022年9月には消費電力を約99.95%削減したとされる大型アップグレード「マージ」(プルーフ・オブ・ワークからプルーフ・オブ・ステークへの移行)を完了し、ステーブルコインやDeFi(分散型金融)、トークン化資産(RWA)の基盤インフラとして存在感を強めてきた歴史があります。
- 一方で、2026年6月に公表された調査によると、イーサリアム本体(メインネット)の取引手数料の中央値は、2024年の2ドル超から2026年初にかけて0.02ドル未満まで大きく下落し、Layer2(L2、処理を肩代わりする拡張レイヤー)の手数料中央値もあわせて95%以上下がったと報告されています。
- 手数料が下がること自体は利用者にとって歓迎すべき変化ですが、その分バーンされるETHの量も比例して減少します。その結果、2026年に入ってからは新規発行量がバーン量を上回る「純発行量プラス(実質的なインフレ転換)」の局面が観測されるようになったと報じられています。
📰 出典:CRYPTO TIMES「イーサリアム11周年、手数料減で『ウルトラサウンドマネー』に揺らぎ」
- イーサリアムの共同創設者であるヴィタリック・ブテリン氏も、「L2中心の環境に移行したことで、イーサリアム自体がどう価値を積み上げ続けていくかが、これからの課題になる」という趣旨の見解を示したと伝えられています。
ステーブルコイン・RWAの基盤としては拡大が続く
同じ記事では、対照的な数字も紹介されています。イーサリアム上で発行されているステーブルコインの残高は約1,488億ドル、トークン化された現実資産(RWA)は約155億ドル規模に達している一方で、メインネット自体が生み出す手数料収入は24時間でおよそ73万4,000ドル(収益ベースで約33万ドル)にとどまるという内容です。
📰 出典:CRYPTO TIMES「イーサリアム11周年、手数料減で『ウルトラサウンドマネー』に揺らぎ」
つまり「イーサリアムというインフラの上で動く経済圏」は拡大を続けている一方、「イーサリアムというネットワーク自体が稼ぐ手数料」は縮小している、というねじれた状況が生まれているわけです。
報道されている内容を、変化の前後で簡単に整理すると次のようになります(あくまで報道内容に基づく一例であり、将来の数値を保証するものではありません)。
- メインネット手数料(中央値): 2024年頃の2ドル超 → 2026年初にかけて0.02ドル未満まで低下
- L2手数料(中央値): あわせて95%超下落したと報告
- ETHの純発行量: かつてはバーンが発行量を上回る局面が中心だったが、2026年に入りバーンが減少し発行量が上回る局面も出現
- ステーブルコイン残高: 約1,488億ドル規模に拡大
- トークン化資産(RWA): 約155億ドル規模に拡大
こうして並べてみると、「ネットワークが安く・使いやすくなったこと」と「ETHという通貨の希少性の物語が揺らいだこと」が、コインの表と裏のように同時に起きていることが分かります。
なお参考までに、市場価格にも触れておきます。2026年8月1日時点でビットコインは約992万円前後、イーサリアムは約29万4,000円で取引され、世界の暗号資産全体の時価総額は約356兆円だったと報じられています。価格は執筆時点の一情報であり、日々大きく変動する点にご留意ください。
📰 出典:CRYPTO TIMES「【今日の仮想通貨】イーサリアム11周年。DOGE企業がAI半導体と10年8億ドルの契約」
筆者の私見 「良いニュース」と「投資物語の前提」は別問題
ここからは、あくまで筆者の私見・考察です。
このニュースで興味深いのは、「手数料が下がる」というユーザーにとって明確に望ましい変化が、同時に「デフレ資産」という投資家向けの物語の土台を揺るがしているという、一見矛盾した構図です。技術としては着実に進歩しているのに、その進歩自体が過去に語られてきた投資ストーリーと食い違ってしまう。暗号資産の世界では、こうしたねじれが起こり得るのだと、今回のニュースはあらためて教えてくれます。
一般論として、暗号資産の価格形成には「技術の中身」だけでなく、「その資産がどんな物語(ナラティブ)を背負っているか」も少なからず影響すると言われています。「ウルトラサウンドマネー」という物語は、2021年のEIP-1559導入以降、イーサリアムに強気な投資家の間で広く共有されてきた考え方のひとつでした。しかし今回のニュースが示すように、ブロックチェーンの設計や利用状況が変わっていけば、その物語を支えていた前提条件自体が、わずか数年単位で変化してしまうことがあります。
筆者としては、これは「イーサリアムというプロジェクトがダメになった」という単純な話ではなく、むしろ「技術は今も進化を続けている」ことの裏返しでもあると捉えています。L2への移行でユーザーの送金コストが下がったのは、暗号資産の利用の裾野を広げるという意味では前向きな変化です。開発陣もこうした変化を踏まえ、次期アップグレード(記事内では「Glamsterdam」という計画名が挙げられています)で、新たな価値の積み上げ方を模索しているとされています。
ただし、これはあくまで一般論であり筆者の私見です。今後イーサリアムの価格やネットワークの仕組みがどう推移するかを断定するものではなく、将来の値動きを保証するものでもありません。
資産形成への発展 「物語」に投資判断を委ねないために
ここから、このニュースを読者ご自身の資産形成にどう生かせるかを考えてみます。
学び1: 「〇〇だから買い」という単純な物語を鵜呑みにしない
「デフレ資産だから値上がりし続ける」「発行上限が決まっているから希少性がある」といった、分かりやすい一言で語られる投資ストーリーは、SNSや動画サイトで拡散されやすい半面、前提となる技術・制度・需給環境が変化すればすぐに崩れてしまう可能性があります。今回のケースのように、プロトコルのアップグレードひとつで数年前の「常識」とされていたものが覆ることは、暗号資産の世界では決して珍しくありません。
学び2: オンチェーンデータも「一つの判断材料」にすぎない
発行量・バーン量・手数料収入といった「オンチェーンデータ」(ブロックチェーン上に記録される取引データ)は、株式でいう決算や財務指標に近い、判断材料のひとつと言えます。ただし、これらの指標が良好だからといって、市場価格の上昇を保証するものではありません。あくまで多角的に状況を眺めるための材料のひとつとして受け止める姿勢が大切です。
学び3: 短期の値動きより、長期の技術動向・利用実態を見る
一時的な値上がり・値下がりのニュースよりも、「そのブロックチェーンが実際にどれだけ使われているか」「開発は継続しているか」「エコシステム(ステーブルコインやDeFiなど)が拡大しているか」といった、より長期的な視点の情報の方が、資産の実態を理解するうえでは参考になりやすいと考えられます。
学び4: これは仮想通貨に限った話ではない
「分かりやすい物語が、時間の経過とともに前提から崩れていく」という構図は、実は株式投資でも起こり得ることです。たとえば「この業種は成長が止まらない」「この会社は絶対に安泰」といった評価も、技術革新や競争環境の変化によって数年で様変わりすることがあります。イーサリアムの事例は暗号資産特有のニュースではありますが、そこから得られる教訓は、株式や投資信託を含めた資産形成全般に応用できる普遍的なものだと筆者は考えています。
具体的なアクション・心構え 長期目線で付き合うために
- 一つの物語・一つの指標だけを根拠に、大きな金額を一度に投じるような判断は避ける
- 暗号資産に振り向ける金額は、失っても生活に支障が出ない「余剰資金」の範囲にとどめる
- 保有する場合も、値動きの根拠とされている前提(今回で言えば「ウルトラサウンドマネー」)が変化していないか、公式情報や複数の解説記事で定期的に確認する習慣を持つ
- SNSで見かける「〇〇だから上がる/下がる」という断定的な意見は、あくまで一つの見方として受け止め、自分でも一次情報(公式発表・調査データなど)に当たる習慣をつける
- 短期的な値動きに一喜一憂せず、長期・分散・余剰資金という基本を暗号資産にも当てはめる
注意点・NG行動 同じ過ちを繰り返さないために
- 過去に語られた物語(「デフレ資産だから絶対に上がる」など)を鵜呑みにしたまま、前提の変化を確認せず保有し続けること
- 「有名人が言っていたから」「SNSで話題になっているから」という理由だけで、特定の暗号資産に短期間で大きな資金を投じること
- 値動きが落ち着いているタイミングで「今のうちに」と焦って高値づかみをすること
- 暗号資産は株式以上に値動きが大きく、詐欺やハッキング、送金ミスによる資産喪失のリスクも存在します。国内で暗号資産を保有・取引する際は、金融庁に登録された暗号資産交換業者を利用することが大原則です。無登録の海外業者や、SNS経由で勧誘される未公開の取引話には特に注意してください。
- 暗号資産の売買で得た利益は、原則として雑所得として課税対象になります。税金の具体的な取り扱いは、国税庁の情報を確認するか、税理士・税務署に相談することをおすすめします。
まとめ 技術の進化を冷静に見守りながら、焦らず判断する
イーサリアム誕生11周年のニュースは、単なる記念日の話題にとどまらず、「暗号資産にまつわる物語は、技術の進化とともに書き換えられていく」という大切な教訓を私たちに示してくれました。手数料が下がったことは利用者にとって前向きな変化である一方、それが「デフレ資産」という投資家向けの物語の前提を揺るがしているという事実は、ひとつの側面だけを見て投資判断をすることの危うさを教えてくれます。
大切なのは、話題になっているニュースや誰かが語る「物語」をそのまま信じ込むのではなく、事実関係を自分なりに確認し、リスクを理解したうえで、余剰資金の範囲で長期目線の判断をすることです。暗号資産は株式以上に値動きが大きく、まだ発展途上の技術でもあります。焦らず、慌てず、自分のペースで資産形成に向き合っていきましょう。

