
「配当金の税金、所得税は総合課税・住民税は申告不要にすると得って聞いたことがあるんだけど…」

「それ、前のルールかも。今もできるのか、正直よく分かってないんだよね」
結論から言うと、上場株式等の配当所得・譲渡所得等について、所得税と個人住民税で異なる課税方式を選ぶことは、令和6年度(2023年分の確定申告)分以降できなくなりました。以前は「所得税は総合課税で配当控除を使い、住民税だけ申告不要にして国民健康保険料などへの影響を抑える」といった組み合わせ技が可能でしたが、税制改正によって現在は所得税の申告内容と住民税の取り扱いが自動的に一致する仕組みに変わっています。
この記事では、初心者の方にも分かりやすいように、そもそも3つの課税方式とは何か、以前できた「所得税と住民税で別方式を選ぶ」とはどういうことだったのか、そして令和6年度からの変更で何が変わったのかを整理して解説します。なお、制度・税率等の情報は執筆時点(2026年8月)のものです。実際の申告にあたっては、必ず国税庁・お住まいの市区町村・税務署の公式情報で最新の内容をご確認ください。本記事は特定の金融商品の売買を推奨するものではなく、株式投資には価格変動による元本割れのリスクがあります。投資・申告に関する最終判断はご自身の責任で行ってください。
そもそも配当金の課税方式は3種類ある
上場株式の配当金を受け取ると、証券会社を通じてあらかじめ約20.315%(所得税15.315%・住民税5%)が源泉徴収されています。実はこの源泉徴収で完結させず、確定申告によって次の3つの方式から選べる仕組みになっています。
- 申告不要制度:確定申告をせず、源泉徴収だけで課税を終わらせる方式
- 総合課税:給与所得など他の所得と合算して申告する方式。一定の要件を満たせば「配当控除」を使える
- 申告分離課税:他の所得と分けて一律の税率で申告する方式。株式等の譲渡損失がある場合、その損失と配当所得を損益通算できる
📰 出典:No.1330 配当金を受け取ったとき(配当所得)|国税庁
どの方式が有利かは、給与所得の水準やその年の株式売買の損益状況など、人によって条件が異なります。「みんなが選んでいるから」ではなく、自分の状況に当てはめて考えることが基本です。
以前は「所得税と住民税で別の方式」を選べた
ここが今回のテーマの中心です。以前の制度では、確定申告書に記載した所得税での課税方式(総合課税・申告分離課税・申告不要)とは別に、住民税の申告においてはそれとは異なる方式を選択できる仕組みがありました。
例えば、次のような組み合わせが可能でした。
- 所得税では総合課税を選んで配当控除の適用を受けつつ、住民税では申告不要を選ぶ
- こうすることで、住民税の計算上は配当所得が「なかったもの」として扱われ、住民税額や、住民税をベースに算定される国民健康保険料・後期高齢者医療保険料・介護保険料、さらには扶養や各種行政サービスの所得判定などへの影響を抑えられる、という考え方が広く知られていました
この「所得税と住民税で異なる課税方式を選べる」という取り扱いを利用するには、確定申告とは別に、お住まいの市区町村へ住民税の申告不要の手続きを行う必要がありました。
令和6年度から「所得税と住民税は一致」に変更
税制改正により、令和6年度(2023年分の所得に対する個人住民税)以降、この「異なる課税方式の選択」制度は廃止されました。現在は、所得税の確定申告で選んだ課税方式が、住民税にもそのまま適用される仕組みになっています。
- 所得税で申告不要を選んだ場合 → 住民税でも申告不要が適用される
- 所得税で総合課税を選んで申告した場合 → 住民税でも総合課税として扱われる
- 所得税で申告分離課税を選んで申告した場合 → 住民税でも申告分離課税として扱われる
つまり、以前のように「所得税だけ申告して、住民税は別扱いにする」という個別調整はできなくなり、確定申告をした時点で住民税の扱いも自動的に決まる、というのが現在のルールです。
📰 出典:上場株式等の譲渡所得等及び配当所得等に係る課税方式の選択(令和6年度以降廃止)に関するお知らせ|東京都北区
この改正の背景には、金融所得課税は本来、所得税と住民税が一体のものとして設計されてきたという考え方があり、公平性の観点から所得税と住民税の取り扱いを一致させる方向に見直されました。
この変更で何が変わるのか
具体的に、読者にとって影響が出やすいポイントを整理します。
1. 確定申告をするかどうかの判断がより重要になった
以前は「所得税だけ申告して住民税は申告不要にする」という逃げ道がありましたが、現在は確定申告をすれば住民税にもその内容がそのまま反映されます。確定申告をするかどうか自体を、より慎重に検討する必要があるということです。
2. 総合課税・申告分離課税を選ぶと住民税・社会保険料等に影響しうる
配当所得を確定申告に含めると、その所得が住民税の計算対象に加わります。住民税額が増えるだけでなく、国民健康保険料や後期高齢者医療保険料、介護保険料など、住民税の所得金額を基準に算定される制度にも影響が及ぶ可能性があります。扶養に入っている家族がいる場合や、各種行政サービスの所得制限に関わる場合も同様に注意が必要です。
📰 出典:個人住民税における上場株式等の配当所得等に係る課税方式について|総務省
3. 「申告不要」を選べば、これまでどおり住民税にも反映されない
確定申告そのものをしない(証券会社の源泉徴収だけで完結させる)「申告不要」を選ぶ場合は、従来どおり配当所得は住民税の計算に含まれません。総合課税や申告分離課税で確定申告をするメリット(配当控除や損益通算など)と、住民税・社会保険料等への影響とを、あわせて比較検討することが大切になります。
初心者がやりがちな誤解・NG行動
- 「昔調べた情報だから今も使えるはず」と思い込む:税制は改正されるため、数年前のブログ記事やSNSの情報をそのまま信じるのは危険です。必ず執筆時点・情報時点を確認しましょう。
- 住民税だけ別に申告不要の手続きをしようとする:令和6年度以降、この個別手続きの制度自体がなくなっているため、市区町村の窓口で対応してもらえません。
- 配当控除や損益通算のメリットだけを見て、社会保険料等への影響を確認しない:総合課税・申告分離課税を選ぶと、住民税を通じて保険料や扶養判定に影響する場合があるため、トータルで考える必要があります。
- 「絶対にこの方式が得」と断定的な情報を鵜呑みにする:有利・不利は所得水準や家族構成、その年の株式の損益状況によって変わるため、一概には言えません。
どう判断すればいいか
税制上のどの選択が自分にとって有利かは、次のような要素によって変わってきます。
- その年の給与所得・事業所得など、他の所得の水準
- その年に株式等の譲渡損失があるかどうか(損益通算をしたいか)
- 国民健康保険や介護保険など、住民税をベースに算定される制度に加入しているか
- 扶養に入っている・入れている家族がいるか
これらを踏まえたうえで、確定申告書作成コーナー(e-Tax)で複数のパターンを試算してみる、あるいは税理士に相談するのも一つの方法です。本記事はどの課税方式を選ぶべきかを助言・推奨するものではなく、あくまで制度の仕組みを理解していただくための情報提供です。
知っておきたいリスクと注意点
株式投資には、価格変動による元本割れのリスクがあります。税金の有利・不利だけを理由に投資判断を行うのではなく、あくまで長期・分散・積立という基本方針の中で検討することが大切です。
また、税制は今後も見直される可能性があります。この記事の内容は執筆時点(2026年8月)の情報にもとづいており、実際に確定申告を行う際は、必ず国税庁・お住まいの市区町村の最新の案内を確認し、判断に迷う場合は税務署や税理士に相談してください。
まとめ 制度は変わる、まずは「今のルール」を確認しよう
かつては所得税と住民税で異なる課税方式を選び、住民税や社会保険料への影響を抑えるという方法がありましたが、令和6年度以降はこの選択制度が廃止され、所得税の確定申告内容が住民税にもそのまま適用される仕組みに変わりました。
「以前聞いた話」や「知人の体験談」をそのまま鵜呑みにせず、確定申告をする前に、まずは国税庁やお住まいの自治体の公式情報で「今のルール」を確認することが、余計な誤解やトラブルを避ける第一歩です。焦らず仕組みを理解したうえで、自分の状況に合った申告方法を検討していきましょう。
