
「株の配当金をもらったけど、確定申告した方がいいのか、しなくていいのかよく分からない…」

「『総合課税』とか『申告分離課税』とか聞いたことはあるけど、正直どれも同じに見えるんだよね」
結論から言うと、上場株式の配当金には「申告不要制度」「総合課税」「申告分離課税」という3つの課税方式があり、どれを選ぶかによって税負担や手続きの手間が変わってきます。特定口座(源泉徴収あり)を使っていれば確定申告をしなくても納税は完了しますが、人によっては確定申告をした方が有利になるケースもあります。この記事では、3つの課税方式の違いと、初心者向けの考え方の目安を整理します。
※ 本記事の税制・制度の内容は執筆時点(2026年7月)の情報です。税制は改正されることがあるため、最新情報は必ず国税庁や、口座を開設している証券会社の公式サイトでご確認ください。また、本記事は特定の課税方式や金融商品の選択を推奨するものではなく、個別の税務判断が必要な場合は税務署・税理士にご確認ください。
そもそも配当金の課税方式には3つの選択肢がある
上場株式(国内株式)の配当金を受け取ると、通常は支払いの時点で所得税・住民税あわせて20.315%が源泉徴収されます。ここで納税が完結する「申告不要制度」を使うこともできますし、あえて確定申告をして「総合課税」または「申告分離課税」を選ぶこともできます。
📰 出典:国税庁「No.1330 配当金を受け取ったとき(配当所得)」
大切なポイントは、この3つのうちどれを選ぶかによって税額や手続きが変わるだけで、投資そのものの利益が増えたり、元本割れのリスクがなくなったりするわけではないということです。あくまで「税金の計算方法の選択」である点を、最初に押さえておきましょう。
1. 申告不要制度
配当金を受け取る際に源泉徴収された20.315%(所得税・復興特別所得税15.315%、住民税5%)で納税が完結し、確定申告をする必要がない方式です。特定口座(源泉徴収あり)で受け取っていれば、基本的に何も手続きをしなくてもこの状態になります。手間がかからない分、後述する配当控除や損益通算は利用できません。
2. 総合課税
給与所得や事業所得など、他の所得と合算して確定申告をする方式です。所得が多いほど税率が上がる「累進課税」が適用されるため、所得水準によっては源泉徴収された20.315%より税率が高くなることも低くなることもあります。総合課税を選んだ場合に限り、次で説明する「配当控除」という税額控除を受けられます。
📰 出典:国税庁「No.1250 配当所得があるとき(配当控除)」
3. 申告分離課税
他の所得と合算せず、配当所得だけを20.315%の税率で申告する方式です。総合課税のような累進税率は適用されませんが、この方式を選ぶ最大のメリットは、上場株式等を売却して出た損失(譲渡損失)と配当金を損益通算できることです。ただし、申告分離課税を選んだ配当所得には配当控除は適用されません。
📰 出典:国税庁「No.1331 上場株式等の配当等に係る申告分離課税制度」
比較表で見る3つの課税方式の違い
| 項目 | 申告不要制度 | 総合課税 | 申告分離課税 | |—|—|—|—| | 確定申告 | 不要 | 必要 | 必要 | | 税率 | 20.315%(源泉徴収のまま) | 累進税率(所得に応じて変動) | 20.315%(一律) | | 配当控除 | 使えない | 使える | 使えない | | 上場株式等の譲渡損失との損益通算 | できない | できない | できる | | 合計所得金額への算入 | されない | される | される |
表からも分かる通り、「配当控除を使いたいなら総合課税」「売却損と相殺したいなら申告分離課税」「とにかく手間をかけたくないなら申告不要」という、それぞれ異なる目的に応じた選択肢になっています。3つとも一長一短があり、「これを選べば誰でも一番お得」という単純な正解はありません。
どんな人にどの方式が向いている?考え方の目安
確定申告の手間を減らしたい人 → 申告不要制度
特定口座(源泉徴収あり)を使っていれば、何もしなくても申告不要制度の状態になります。会社員などで、他に確定申告をする理由が特にない人にとっては、最もシンプルな選択肢です。
配当控除の恩恵を受けたい人 → 総合課税
配当控除は、国内法人からの配当について、法人税と所得税の二重課税を調整する趣旨で設けられている制度です。一般的には、給与所得など他の所得と合算した課税所得がそれほど高くない人ほど、総合課税を選んで配当控除を使うことで、源泉徴収された税率よりも実質的な負担が軽くなる可能性があるとされています。
📰 出典:国税庁「No.1250 配当所得があるとき(配当控除)」
ただし、有利になるかどうかは所得水準や他の所得控除の状況によって変わるため、一律の金額の目安を示すことは難しい部分があります。証券会社の確定申告シミュレーションツールや、税務署・税理士への相談を通じて、自分の場合はどうなるかを確認することをおすすめします。
株式・投資信託の売却損と配当を相殺したい人 → 申告分離課税
同じ年に株式や投資信託を売却して損失が出た場合、申告分離課税を選んで確定申告をすれば、その譲渡損失と配当金を損益通算できます。損益通算をしてもなお引ききれない損失がある場合は、翌年以降3年間にわたって繰り越すこともできます。複数の証券会社を使っていて、一方の口座は利益、もう一方は損失という場合にも、この仕組みが役立つことがあります。
見落としがちな注意点
令和6年度分から住民税の課税方式は所得税と自動的に一致する
以前は、上場株式等の配当所得等について、所得税と個人住民税で異なる課税方式を選ぶことができる制度がありました。しかし令和4年度税制改正により、令和6年度分の個人住民税からはこの選択制度が廃止され、住民税の課税方式は所得税の確定申告で選んだ方式に自動的に一致することになりました。
📰 出典:総務省「令和4年度税制改正の大綱」
つまり、現在は「所得税は総合課税、住民税だけ申告不要」といった使い分けはできません。この点は制度が変わったばかりで見落としている人も多いため、確定申告をする前に必ず確認しておきたいポイントです。
確定申告をすると「合計所得金額」に影響することがある
総合課税・申告分離課税のいずれを選んだ場合も、配当所得は「合計所得金額」に算入されます。この合計所得金額は、扶養控除や配偶者控除の判定、国民健康保険料の算定、各種行政サービスの所得制限などに影響することがあります。特に、家族の扶養に入っている人や、社会保険料の算定に敏感な立場にある人は、確定申告によって配当所得を申告することで、こうした思わぬ影響が出る可能性がある点に注意が必要です。個別の影響は状況によって異なるため、不安がある場合は税務署や税理士、勤務先の担当窓口に確認することをおすすめします。
NISA口座の配当金はそもそも対象外
NISA(少額投資非課税制度)口座で保有している株式の配当金は、そもそも非課税のため、ここで説明した3つの課税方式の話とは関係がありません。ただし、NISA口座の配当金を非課税で受け取るには、証券会社で「株式数比例配分方式」を選択している必要があるという別の注意点があります。
📰 出典:金融庁「NISA特設ウェブサイト」
課税口座(特定口座・一般口座)とNISA口座、両方を保有している人は、それぞれの取り扱いを混同しないようにしましょう。
大口株主等には別のルールがある
発行済株式の一定割合以上を保有する「大口株主等」が受け取る上場株式等の配当については、申告分離課税や申告不要制度を選択できず、原則として総合課税の対象になるという特別なルールがあります。一般的な個人投資家にはあまり関係のないケースですが、制度として存在することは知っておくとよいでしょう。
初心者がやりがちなNG行動
- 「確定申告=面倒だから絶対しない」と決めつけてしまう: 所得水準によっては、確定申告をして総合課税を選んだ方が結果的に税負担が軽くなる場合もあります。食わず嫌いにせず、一度は自分のケースで比較してみる価値があります。
- 配当控除と外国税額控除を混同する: 配当控除は国内法人からの配当が対象で、外国株式の配当には使えません。米国株など外国株式の配当については、外国税額控除という別の制度になるため、混同しないよう注意しましょう。
- 扶養控除や保険料への影響を確認せずに申告してしまう: 確定申告によって合計所得金額が増え、家族の扶養から外れてしまったり、保険料の負担が増えたりするケースがあります。事前に影響を確認せずに申告すると、思わぬ形で家計全体の負担が増えることもあります。
- 住民税だけ別の方式を選べると思い込んでいる: 前述の通り、令和6年度分からはこの選択はできなくなっています。古い情報のまま「住民税だけ申告不要にできる」と誤解しないようにしましょう。
リスクと注意点
課税方式の選択はあくまで税金の計算方法を決めるものであり、株式投資そのものの値動きや元本割れのリスクをなくすものではありません。配当金は企業の業績や配当方針によって減配・無配となる可能性があり、将来にわたって同じ金額を受け取れることを保証するものではありません。
また、この記事で紹介した税率や制度は執筆時点(2026年7月)のものであり、税制は今後変更される可能性があります。確定申告の方式を選ぶ前には、必ず国税庁の最新情報や、口座を開設している証券会社の公式サイトを確認してください。所得水準や家族構成によって有利不利の判定は個別性が高いため、判断に迷う場合は税務署や税理士に相談することをおすすめします。
本記事は情報提供を目的としたものであり、特定の金融商品の売買や特定の課税方式の選択を推奨するものではありません。最終的な投資判断・申告方法の選択は、リスクを理解した上でご自身の責任で、余剰資金の範囲で行ってください。
まとめ 3つの方式は「目的」で選ぶもの
配当金の課税方式には「申告不要制度」「総合課税」「申告分離課税」の3つがあり、それぞれ税率・配当控除の有無・損益通算の可否が異なります。手間をかけたくないなら申告不要、配当控除の恩恵を受けたいなら総合課税、売却損と相殺したいなら申告分離課税というように、自分の状況や目的に合わせて選ぶことが大切です。
令和6年度分からは住民税の課税方式が所得税と自動的に一致するようになった点、確定申告によって合計所得金額が変わり扶養控除等に影響しうる点など、見落としやすい注意点も押さえた上で、迷ったときは証券会社のシミュレーションツールや税理士への相談を活用しましょう。課税方式の選び方はあくまで税金の手続き上のテクニックであり、資産形成の土台になるのは長期・分散・積立という基本方針です。目先の税負担の損得だけにとらわれすぎず、無理のない範囲で投資を続けていくことを大切にしてください。

