
「離婚を考えているけど、夫(妻)が暗号資産をやっていたはず…あれって財産分与の対象になるの?」

「価格が毎日変わるから、いつの時点の金額で分けるのか見当もつかない…」
結論から言うと、婚姻中に取得した暗号資産(ビットコインなどの仮想通貨)は、預貯金や株式と同じく原則として財産分与の対象になります。ただし、①価格変動が激しいため「いつの時点の金額で評価するか」で揉めやすい、②取引所口座やウォレットの存在自体を相手が把握していないことがある、③受け取り方によっては税金が発生しうる、という3つの特有の注意点があります。
この記事では、離婚時に暗号資産をどう分けるかの基本的な考え方と、初心者の方がつまずきやすいポイントを整理します。なお、個別の事情によって結論は大きく変わるため、実際の手続きでは弁護士・税理士など専門家への相談を前提にお読みください。本記事は情報提供を目的としたものであり、法的助言や投資助言を行うものではありません。
そもそも暗号資産は財産分与の対象になる?
「夫婦で協力して築いた財産」かどうかがポイント
財産分与は、婚姻中に夫婦が協力して築いた財産を、離婚時に公平に分け合う制度です(民法768条)。対象になるのは預貯金や不動産、株式・投資信託だけでなく、暗号資産のような比較的新しい資産も含まれると考えられています。
[引用元:暗号資産や電子マネーは財産分与の対象?離婚時のデジタル財産の調査方法と分与方法|https://www.nagoyasogo-rikon.com/school/digital-bunyo/]でも、婚姻中に取得した暗号資産は「夫婦で協力して築いた財産」として財産分与の対象になり得ると解説されています。
一方で、結婚前から保有していた暗号資産や、相続・贈与で得た暗号資産は「特有財産」として財産分与の対象外になるのが原則です。この線引きは株式や預貯金の考え方と基本的に同じです。
見落とされやすい「デジタル資産」という特性
不動産や預貯金と違い、暗号資産は通帳や登記簿のような「見える記録」が本人以外には分かりにくいという特徴があります。取引所のアカウント自体を配偶者に伝えていないケースや、ハードウェアウォレット(オフラインで秘密鍵を管理する機器)で個人的に保管しているケースでは、存在そのものが把握されにくく、財産分与の話し合いで見落とされがちです。
まずは「お互いにどんな金融資産・暗号資産を保有しているか」を開示し合うことが、公平な分与の出発点になります。
財産分与で悩みやすい3つのポイントと考え方
1. 「いつの時点の評価額」で分けるかが決まっていない
暗号資産の財産分与で最も揉めやすいのが、評価の基準時です。実務上、財産分与の対象となる財産の「範囲」は別居時点を基準に確定させ、その財産の「評価額」は離婚成立時点(裁判になった場合は口頭弁論終結時など)を基準に金銭評価するという考え方が一般的とされています。
株式や不動産のような価格変動資産でも同様の考え方が取られますが、暗号資産は1日で10%以上値動きすることも珍しくなく、株式以上に「どの時点を使うか」で受け取る金額が大きく変わってしまう点に注意が必要です。

「基準日を決めるだけでこんなに揉めるとは思わなかった…」
このような事情から、実務では当事者同士で評価基準日をあらかじめ合意しておく、あるいは調停・裁判の中で裁判所が示す基準に従う、という進め方が取られることが多いとされています。合意ができない場合は、弁護士を通じて調整するのが現実的です。
2. 現物のまま分けるか、現金化してから分けるか
分与の方法には大きく分けて次の2パターンがあります。
- 現金化してから分ける:保有者が暗号資産を売却し、得た日本円を分与する方法。評価額が確定しやすく、トラブルになりにくい一方、売却タイミングによっては保有者側に譲渡益(雑所得)への課税が生じる可能性があります。
- 暗号資産のまま移転する:保有者のウォレット・取引所口座から相手の口座へ暗号資産そのものを送付する方法。送金先の口座開設や送金手数料、送金ミスのリスクなどを考慮する必要があります。
どちらの方法が適切かは、金額の大きさや当事者の投資経験、税金面の影響によって変わります。判断に迷う場合は、感情的に急いで決めず、専門家に相談したうえで進めることをおすすめします。
3. 税金はどうなる? 「もらう側」と「渡す側」で扱いが異なりうる
財産分与そのものは、原則として贈与税の対象にはならないとされています。財産分与は「夫婦の共有財産を清算する」性質のものであり、一方から一方への贈与とは法的な位置づけが異なるためです。
一方で注意したいのは「渡す側」です。国税庁は、離婚に伴い値上がりした土地や建物を財産分与として渡した場合、渡した時点の時価で譲渡したものとみなされ、譲渡所得の課税対象になり得るという考え方を示しています。
暗号資産についてこの土地建物のケースと全く同じ取り扱いになるとは限りませんが、「取得時より値上がりした資産を分与として渡すと、渡す側に課税関係が生じる可能性がある」という発想自体は参考になります。暗号資産の売却・使用による利益は原則として雑所得に区分され、給与所得などと合算して総合課税されるのが基本的な考え方です。
こうした取り扱いは資産の種類や渡し方によって細かく変わるため、具体的な税額や申告の要否は、必ず税理士や税務署(国税庁の相談窓口)に確認してください。この記事の内容は一般的な考え方の整理であり、個別のケースに当てはめた税務上の判断ではありません。
財産分与はどんな流れで進む? 大まかなステップ
暗号資産を含む財産分与は、一般的に次のような流れで進みます。あくまで一般的な流れであり、実際の進め方はケースごとに異なります。
- お互いの財産を開示し合う:預貯金、株式・投資信託、暗号資産、不動産などをリストアップする
- 評価基準日・評価額を話し合う:暗号資産は特に基準日の合意が重要
- 分け方(割合・現金化か現物移転か)を話し合う:折半(2分の1)が原則とされることが多いですが、事情により調整されることもあります
- 合意内容を離婚協議書・公正証書にまとめる:口約束だけでなく書面に残すことでトラブルを防ぎやすくなります
- 話し合いがまとまらない場合は、家庭裁判所の調停・審判へ:当事者だけで解決が難しい場合の選択肢です
暗号資産が関係する場合、3〜4の段階で「どのウォレット・取引所から」「いつまでに」「どちらの負担で」送金・現金化するかまで具体的に取り決めておくと、後々のトラブルを防ぎやすくなります。
よくある疑問にお答えします
Q. 海外の無登録取引所にある暗号資産も対象になる?
婚姻中に取得したものであれば、保管場所が海外の取引所であっても財産分与の対象になり得ると考えられます。ただし、無登録の海外業者は情報開示に応じない、出金手続きが煩雑、最悪の場合は出金自体ができないといったトラブルが起きやすいのが実情です。今後同じような資産を持つ場合は、金融庁登録の国内取引所を使うことがトラブル予防につながります。
Q. 相手が「暗号資産は自分だけの財産」と主張してきたら?
暗号資産の名義は取引所の口座名義人になるため、一見「本人だけのもの」に見えます。しかし、婚姻中の収入や共有の生活資金を原資に取得したものであれば、名義にかかわらず財産分与の対象になり得ると考えられています。株式や投資信託が「名義人だけのもの」ではなく夫婦の共有財産として扱われるのと同じ発想です。判断が難しい場合は、取得時期や資金の出どころを整理したうえで弁護士に相談しましょう。
Q. 少額のアルトコインやNFTも財産分与の対象?
金額の大小にかかわらず、理屈のうえでは暗号資産・NFTも財産分与の対象になり得ます。ただし、少額であれば話し合いの中で「細かい銘柄は考慮しない」と合意して簡略化するケースも実務上は見られます。金額が大きい場合や、値動きの激しいアルトコインを含む場合は、評価基準日の取り決めをより慎重に行う必要があります。
【参考】評価額のイメージをつかむ簡単な例
数字のイメージをつかむために、簡単な例を挙げます。あくまで説明のための一例であり、実際の金額や結果を保証するものではありません。
例えば、別居時点でビットコインを保有しており、離婚成立までに数か月かかったとします。この間に価格が大きく上昇していた場合、「別居時の評価額」で計算するか「離婚成立時の評価額」で計算するかによって、受け取れる金額に数十万円単位の差が生じることもあり得ます。逆に価格が下落していれば、その差はマイナス方向にも働きます。
このように、暗号資産は評価基準日ひとつで金額が大きく変わりうる資産です。だからこそ「いつの時点で評価するか」を早い段階で明確にし、書面に残しておくことが重要になります。
実践する際の注意点・リスク
「隠し財産」化しやすいという特有のリスク
暗号資産は、株式のように証券会社からの取引報告書が家に届くわけではなく、スマートフォンアプリやオンライン取引所の中だけで完結してしまいます。悪意がなくても「言い忘れていた」ということが起こりやすく、逆に意図的に財産分与の対象から除外しようとする動きも起こり得ます。
財産分与の話し合いでは、預貯金通帳や証券口座の取引履歴だけでなく、「暗号資産の取引所口座を持っているか」「ウォレットアプリを使っているか」も含めてお互いに確認しておくことが大切です。調査が難航する場合は、弁護士を通じた開示請求や調査が選択肢になります。
秘密鍵・シードフレーズの共有には細心の注意を
暗号資産をそのまま分与する際、秘密鍵やシードフレーズ(ウォレット復元用の単語列)の取り扱いには注意が必要です。これらが第三者に渡ると資産を丸ごと抜き取られるリスクがあるため、分与の実務は必ず信頼できる第三者(弁護士など)を交えて進め、口頭やメッセージアプリで安易にシードフレーズをやり取りしないようにしましょう。
価格変動リスクを踏まえた「受け取り方」の検討
暗号資産は株式以上に価格変動が大きい資産です。財産分与で暗号資産をそのまま受け取る場合、その後の値動きによって資産価値が大きく増減するリスクを自分自身で引き受けることになります。投資経験が少ない方は、受け取った後すぐに全額を保有し続けるかどうかも含め、余剰資金の範囲でどう扱うかを慎重に考える必要があります。
金融庁登録の取引所を使っているかも確認を
暗号資産を移転・現金化する際は、必ず金融庁に登録された暗号資産交換業者の口座を利用しましょう。無登録の海外取引所は出金トラブルや詐欺的な運営のリスクが高く、離婚という精神的な負担が大きい時期に、さらにトラブルを抱え込むことにもなりかねません。相手の保有先が無登録業者だった場合は、その点も含めて弁護士に相談することをおすすめします。
まとめ 感情的にならず、専門家と一緒に進める
暗号資産の財産分与は、①対象になるかどうかの整理、②評価基準日の合意、③現物か現金化かの選択、④税金の確認という順番で考えると整理しやすくなります。特に評価基準日と税金の扱いは、株式以上に価格変動が大きい暗号資産ならではの悩みどころです。
- 婚姻中に取得した暗号資産は原則として財産分与の対象
- 評価基準日をどう決めるかで受け取り額が大きく変わる
- 現物移転か現金化かは金額・税金面を踏まえて選ぶ
- 具体的な税務上の扱いは税理士・税務署に必ず確認する
- シードフレーズの共有は第三者を交えて慎重に行う
離婚という大きな決断のさなかに、価格変動の激しい暗号資産の分け方まで一人で判断するのは簡単ではありません。感情的に急いで結論を出すのではなく、弁護士・税理士といった専門家に相談しながら、落ち着いて手続きを進めることをおすすめします。
本記事は情報提供を目的としたものであり、特定の金融商品の売買や法的手続きを推奨するものではありません。暗号資産は価格変動が大きく、元本割れの可能性がある金融商品です。実際の財産分与・税務手続きは、必ず弁護士・税理士など専門家に確認のうえ、ご自身の責任で判断してください。

