
「中東情勢が悪化すると『有事の金』で金価格が上がるって聞いたことがあるけど…」

「原油はすごく上がってるのに、肝心の金は下がったってニュースを見て、ちょっと混乱したよ」
結論から言うと、2026年7月23日、中東情勢の緊迫化を受けてNY原油先物が大幅に続伸した一方、「有事の安全資産」とされる金(ゴールド)は反対に下落しました。「地政学リスクが高まれば金が買われる」というイメージだけで投資判断をしてしまうと、実際の値動きとズレが生じることがあります。この記事では、今回報じられた事実関係を整理したうえで、筆者の私見を交えながら、「有事の金」という言葉との付き合い方、そして資産形成における分散の大切さを一緒に考えていきます。
※ 本記事は2026年7月24日時点で確認できた報道をもとにした情報提供を目的としたものであり、特定の金融商品・通貨の売買を推奨するものではありません。相場の先行きを断定するものでもありません。投資は自己責任で、余剰資金の範囲で行ってください。
ニュースの要点整理 原油急伸と金の反落が同時に起きた1日
原油はフーシ派によるタンカー攻撃を受けて急伸
まず押さえておきたいのは、原油価格の動きです。2026年7月23日のニューヨーク商業取引所(NYMEX)で、WTI原油先物9月限は前日比大幅高となり、中心限月ベースでは6月初旬以来の高値水準まで買われたと報じられています。
📰 出典:〔NY石油〕WTI急伸、92.19ドル=6月初旬以来の高値(23日)(時事通信/Yahoo!ファイナンス)
背景として伝えられているのは、イエメンの親イラン武装組織フーシ派が7月20日に「紅海でのサウジアラビア関連船舶の往来を封鎖する」と宣言したのに続き、23日には実際に紅海でサウジアラビア関連のタンカー2隻をミサイル攻撃したと発表したことです。原油の輸送ルートを巡る供給不安が一段と強まったことが買い材料になったとされています。
📰 出典:フーシがサウジ関係タンカー攻撃、原油輸送代替ルートの紅海にも戦域拡大か(読売新聞/Infoseekニュース)
米国とイランを巡る緊張も引き続き高い状態にあり、トランプ大統領がイランへの「大規模な」攻撃を検討していると発言したとも報じられており、市場では中東情勢の一段の緊迫化への警戒が強まっていたようです。
📰 出典:NY商品、原油が大幅続伸 中東の一段の緊迫で 金は反落(日本経済新聞)
一方で「有事の金」とされる金相場は反落
ここが今回のポイントです。原油が大きく買われた同じ23日、NY金先物(COMEX・8月限)は前営業日比で大幅に下落し、直近3営業日続いていた上昇の流れが止まったと報じられています。
📰 出典:NY商品、原油が大幅続伸 中東の一段の緊迫で 金は反落(日本経済新聞)
下落の理由として伝えられているのは、米国の雇用関連指標(新規失業保険申請件数)が市場予想を上回る強い結果となり、約半世紀ぶりの低水準になったと報じられたことです。労働市場の底堅さが改めて意識されたことで、米連邦準備制度理事会(FRB)が年内に利上げに動くのではないかという観測が強まり、米長期金利の上昇とドル高が進みました。金利を生まない資産である金にとっては、金利上昇・ドル高が投資妙味を薄める材料になったと分析されています。
📰 出典:NY金:続落で4,007.92ドル、中東緊迫を受けたドル高・金利上昇観測が重し(フィスコ/Yahoo!ファイナンス)
実はこうした「地政学リスクが高まっても金が下落する」という動きは、2026年7月が初めてではありません。同年2月28日に米国とイスラエルによるイラン関連施設への攻撃が報じられた際にも、金相場は「有事の金買い」とは逆に下落した局面があったと、証券会社のマーケット解説でも指摘されています。
📰 出典:中東情勢悪化で「有事の金(ゴールド)」の価格が下落した理由(野村證券 NOMURA ウェルスタイル)
なお、翌7月24日の東京株式市場では、日経平均株価が前営業日比1,800円超安の大幅反落となり、米ハイテク株安に加えて原油高が企業収益への逆風として意識されたことも一因と報じられています。中東情勢を起点とした値動きは、原油・金・株式と複数の市場に同時に波及していたことがうかがえます。
📰 出典:日経平均は大幅反落、東エレクが1銘柄で約448円分押し下げ(財経新聞)
筆者の私見 「有事の金」はあくまで一つの経験則にすぎない
ここからは筆者の私見です。「地政学リスクが高まれば金が買われる」という考え方(いわゆる「有事の金」)は、長い金融の歴史の中でしばしば見られてきた傾向ではあります。ただ、今回のように原油が大きく買われる一方で金が下落する場面を見ると、金の値動きは地政学リスクだけで決まるわけではなく、金利・為替・雇用統計など複数の要因が絡み合って決まっているのだと、あらためて感じます。
あくまで筆者の見方ですが、「有事の金」という言葉は分かりやすく便利な反面、「地政学リスク=金は必ず上がる」という単純化した思い込みにつながりやすい表現でもあるように思います。実際には、同じ「中東情勢の緊迫化」というニュースでも、その時々の金利動向や市場心理によって、金が買われる場面もあれば、今回のように売られる場面もあります。特定の値動きのパターンを「絶対の法則」だと思い込まず、その都度伝えられている理由を確認する姿勢が大切だと感じます。
資産形成への発展 今回のニュースから考えたい3つの視点
今回のような「原油高・金安」というねじれた値動きは、個人の資産形成において次のようなことを考えるきっかけになります。
- 「安全資産だから大丈夫」という思い込みを見直す: 金や国債など、一般的に「安全資産」と呼ばれる資産であっても、金利動向やドルの強弱によって値動きが大きく変わることがあります。特定の資産を「守り」だと決めつけて偏った持ち方をしないことが大切です。
- 一つの資産・一つの理屈に頼らない分散を意識する: 原油・金・株式・為替が同時に、かつそれぞれ異なる方向に動いた今回のような局面は、複数の値動きの理由を一つのストーリーで説明しようとすることの難しさを示しています。値動きの理由が資産ごとに異なりうる前提で、資産の種類・地域を分けて持つ分散の考え方が実践的です。
- 短期の値動きの「理由探し」に振り回されすぎない: 相場が動くたびに「なぜ動いたか」という解説がニュースで語られますが、後から振り返って理由付けされている面もあります。日々の値動きの解説を教養として参考にしつつ、自分の長期的な資産配分の方針まで頻繁に変えないようにすることが、結果的に落ち着いた判断につながりやすいと感じます。
具体的なアクション・心構え 長期目線で取り組むために
- 自分の資産配分を一度棚卸ししてみる: 現金・株式(国内外)・投資信託・(保有していれば)金や暗号資産などが、それぞれどれくらいの割合になっているかを確認してみましょう。特定のテーマや資産に偏りすぎていないかを点検するだけでも、次にニュースを見たときの受け止め方が変わってきます。
- ニュースの「見出し」と「詳細」を分けて読む: 「原油急伸」「金反落」といった見出しだけで判断せず、その背景にある金利観測や需給要因まで確認する習慣をつけると、単純な思い込みに流されにくくなります。
- 積立投資は淡々と続ける: つみたてNISAなどで定期的に積立を行っている場合、1日単位の相場の乱高下に合わせて設定を変える必要は基本的にありません。あらかじめ決めた方針を長期で続けることの方が、多くの場合は実践しやすい考え方です。
注意点・NG行動 同じような場面でやってしまいがちなこと
- 「有事の金」という言葉だけを根拠に金関連の商品を買い増す: 今回のように、地政学リスクの高まりが必ずしも金価格の上昇に直結するとは限りません。値動きの理由を確認せず、格言やイメージだけで売買判断をするのは避けましょう。
- 原油高・金安のニュースを見て、慌てて資産配分を組み替える: 短期的な値動きに反応して大きく資産配分を変えると、結果的に高値づかみや安値での売却につながりやすくなります。
- SNS等で見かけた「次はこうなる」という断定的な予想を鵜呑みにする: 相場の先行きは専門家の間でも見方が分かれており、誰にも確実には分かりません。断定的な予想には注意し、複数の情報源を確認する習慣を持ちましょう。
- 金やコモディティ関連の商品にレバレッジをかけて短期売買する: 値動きの大きい商品でレバレッジを使うと、予想と逆に動いた場合の損失も大きくなります。仕組みとリスクを十分理解しないまま手を出すのは避けたい行動です。
まとめ 「分かりやすい法則」ほど一度立ち止まって考える
2026年7月23日、中東情勢の緊迫化を背景に原油価格が急伸する一方、「有事の金」と呼ばれる金相場はむしろ下落するという、直感とはややズレた値動きが報じられました。この出来事は、相場の値動きが単純な一つの法則だけで説明できるものではなく、金利・為替・需給など複数の要因が絡み合って決まっていることを教えてくれます。
分かりやすい格言やパターンほど、実際にそれと異なる値動きが起きたときに戸惑いや焦りにつながりやすいものです。だからこそ、特定の資産や理屈に偏りすぎず、長期・分散・積立という基本を保ちながら、日々のニュースは「教養」として落ち着いて受け止めていただければと思います。

