
「NISAで売った分の非課税枠、今年中に復活するようになったって聞いたけど本当?」

「制度改正のニュース、いろいろ流れてきて、もう決まったことなのか、まだ検討中なのか正直よく分からないんだよね…」
結論から言うと、「NISAの非課税枠が売却した年のうちに復活する」仕組みは、2026年9月時点ではまだ実現していません。金融庁が2026年8月31日に公表した「令和9(2027)年度税制改正要望」の中で、改めて要望として盛り込まれた項目のひとつです。つまり「決まったこと」ではなく「金融庁がお願いしている段階」の話です。
この記事では、今回の税制改正要望の中身を整理したうえで、なぜ「年内復活」がまだ実現していないのかという経緯と、同じタイミングで方向性が固まりつつある暗号資産(仮想通貨)の税制との違いを手がかりに、制度改正のニュースとどう付き合えばいいかを考えます。制度・税制の内容は執筆時点(2026年9月)の情報であり、今後変わる可能性があります。最新情報は必ず金融庁など公式サイトでご確認ください。
ニュースの要点整理:金融庁「令和9年度税制改正要望」の中身
📰 出典:令和9(2027)年度 税制改正要望について(金融庁)
金融庁は2026年8月31日、2027年度(令和9年度)の税制改正に向けた要望を公表しました。NISA関連では「あらゆる世代がライフプランに沿った資産形成を行えるように」という趣旨で、次のような項目が盛り込まれています。
- 非課税保有限度額の「当年中」の復活:現行制度では、NISA口座内の商品を売却しても、非課税枠が復活するのは「翌年」です。金融庁は、同じ年のうちに枠を復活させることで、商品の入れ替え(スイッチング)をしやすくするよう求めています。
- つみたて投資枠における要件の整備:制度の使い勝手を高めるための細かな要件見直しです。
- 制度の予見可能性を高め、証券会社などのシステム対応に十分な準備期間を確保する狙いも示されています。
実はこの「年内復活」、今回が初めての要望ではありません。金融庁は前年(2025年8月)にも令和8(2026)年度税制改正要望として、①つみたて投資枠を未成年にも拡大 ②対象商品の拡充 ③非課税枠の年内復活、の3項目を求めていました。
📰 出典:NISAの枠は「その年のうちに」戻るのか 金融庁が2027年度税制改正要望を公表(横田健一)|Yahoo!ニュース エキスパート
しかし2025年12月に閣議決定された「令和8年度税制改正大綱」で実際に採用されたのは、①未成年への拡大と②対象商品の拡充の2項目のみでした。③の「年内復活」は見送られ、継続検討の扱いとなっています。今回(2026年8月)の要望は、この見送られた項目を改めて要望書に盛り込んだ、いわば“再チャレンジ”という位置づけです。
📰 出典:NISA年内復活「2027年1月施行」は誤り|損失に手厚いのは仮想通貨|CRYPTO TIMES
一方で、SNSや一部の情報サイトでは「2027年1月からNISAの枠が年内に戻るようになる」といった趣旨の情報も見られます。しかし現時点で確認できる公式情報を踏まえると、これは正確ではなく、あくまで金融庁の「要望」に留まっている内容と、実際に決定・施行される制度改正が混同されて広まっているケースがあるようです。
NISAと暗号資産、税金の扱いはどう違う?
ここで一度、NISAと暗号資産の税金まわりの位置づけを簡単に整理しておきます(あくまで2026年9月執筆時点の情報です。今後の法改正・施行状況によって変わり得るため、最新情報は国税庁・金融庁の公式発表でご確認ください)。
| 比較項目 | NISA | 暗号資産(税制改正後の見通し) | |—|—|—| | 利益への課税 | 非課税 | 申告分離課税(約20.315%)へ移行予定 | | 損失の扱い | 損益通算・繰越控除なし | 3年間の繰越控除を導入予定 | | 非課税枠の復活時期 | 翌年(「年内復活」は要望段階) | 該当なし(そもそも非課税制度ではない) | | 適用開始の見通し | 未定(次の税制改正大綱の議論次第) | 法改正済み、2028年1月以降の取引から見込み |
こうして並べてみると、「非課税か課税か」という軸と、「損失を救済する仕組みがあるか」という軸は別問題であることが分かります。NISAは利益が非課税になる代わりに損失の救済がなく、暗号資産は課税されるものの損失を将来の利益と相殺できるようになる見通しです。どちらが良い・悪いという単純な優劣ではなく、それぞれの制度の設計思想の違いとして理解しておくのがよいでしょう。
筆者の私見・考察:「要望」と「決定」はまったく別の段階にある
ここからは筆者の私見です。税制改正のニュースを読むうえで意識したいのは、「要望→与党の税制調査会での議論→税制改正大綱の決定(例年12月ごろ)→関連法案の国会審議・成立→施行」という一連の段階があり、報道で見かける情報がそのどの段階のものかによって、確度がまったく違うという点です。
今回の「非課税枠の年内復活」は、まだ最初の「要望」の段階です。過去に一度、大綱の決定段階で見送られた経緯があることを踏まえると、次の大綱(2026年12月ごろに決定される見込み)で採用されるかどうかは、現時点では未確定と捉えるのが妥当だと筆者は考えます。もちろん金融庁の要望が毎年繰り返されていること自体は、制度の方向性を考えるうえでのひとつの参考材料にはなりますが、「もうすぐ実現する」と決めつけるのは早計でしょう。
対照的なのが暗号資産(仮想通貨)の税制です。2025年12月の税制改正大綱で、暗号資産取引を金融商品取引法の枠組みで規制する法整備とあわせて、売買益への課税方式を現在の総合課税(最大約55%)から申告分離課税(約20.315%)へ移行し、あわせて3年間の損失繰越控除を導入する方向性が示されました。
📰 出典:【令和8年度改正】暗号資産の分離課税化と「特定暗号資産」の選別実務|税理士.ch
関連する金融商品取引法の改正はすでに成立しており、適用は2027年の制度施行を経て、2028年1月以降に行う取引から、という見通しが示されています。つまり暗号資産の税制見直しは、NISAの「年内復活」よりも一歩進んだ「決定・施行待ち」の段階にあるといえます。
ただし誤解してほしくないのですが、これは「暗号資産の方がNISAより優れている」という話ではありません。NISA口座はもともと利益が非課税になる代わりに、損失が出ても他の口座の利益と相殺する「損益通算」や、翌年以降に損失を繰り越す「繰越控除」の仕組みがありません。暗号資産は総合課税・申告分離課税いずれであっても値動きの大きさそのものは変わらず、価格が大きく下落するリスクや、取引所のハッキング・出金トラブルといったリスクは依然として存在します。制度ごとに税金の扱いも、損失時の救済策の有無も異なる、という「特性の違い」として捉えるのが正確だと筆者は考えます。
資産形成への発展:制度ニュースを「段階」で読む視点を持つ
今回のニュースから読者の資産形成に活かせる学びは、次の2点に整理できます。
1つ目は、制度改正の情報に接したとき、それが「要望」「大綱決定」「法案成立」「施行」のどの段階の話かを確認する習慣を持つことです。特にNISAや暗号資産のように毎年のように税制改正の話題が出るジャンルでは、「〜が検討されている」という報道と「〜に決まった」という報道を混同すると、実際の制度とズレた前提で資産計画を立ててしまうおそれがあります。
2つ目は、非課税制度であっても「損失を救済する仕組みがあるかどうか」は商品・口座ごとに異なる、という基本構造を理解しておくことです。NISAは値上がり益が非課税になる大きなメリットがある一方、値下がりして損失が出た場合に他の利益と相殺できないという弱点も併せ持ちます。値上がりのメリットだけでなく、値下がり時の扱いまで含めて制度を理解しておくことが、落ち着いた判断につながります。
例えば、NISA口座でつみたて投資をしている人が「非課税枠が年内に復活するようになるらしいから、含み益が出ている商品を一度売って別の商品に乗り換えよう」と、まだ実現していない制度を前提に動いてしまうと、実際には枠の復活が翌年になり、想定していたタイミングで再投資できなくなる可能性があります。制度が「決定」してから行動しても遅くはない、というのが筆者の考えです。
具体的なアクション・心構え
- 制度改正のニュースを見たら、まず「要望段階」なのか「決定済み」なのかを確認する(金融庁・財務省・国税庁など公式発表が一次情報です)。
- 「年内復活」を前提にした売却・入れ替え(スイッチング)の計画は、現時点では立てない。現行制度(枠の復活は翌年)を前提に、無理のない範囲で判断する。
- 暗号資産の申告分離課税・繰越控除は2028年1月以降の取引から適用される見通しであり、それ以前の取引・現時点(2026年)の確定申告には現行の総合課税ルールが適用される点に注意する。
- NISA・暗号資産いずれについても、税金の具体的な計算や申告の要否に迷ったら、国税庁の案内や税理士・税務署に確認する。
- SNSで見かけた「もう決まった」という情報は、鵜呑みにせず公式情報で裏取りする。
- 次の税制改正大綱は例年12月ごろに決定される見込みです。年末にかけて関連ニュースが増えることが予想されるため、「要望のうちどれが採用されたか」を大綱決定後に確認する、というくらいのペースで十分です。慌てて日々のニュースに一喜一憂する必要はありません。
注意点・NG行動
- 未確定の制度変更(今回の「年内復活」など)を前提に、慌てて売買やスイッチングを行わない。
- 「NISAは損しても大丈夫」「暗号資産の方が税制上お得」といった単純化した比較で投資判断をしない。損失時の救済の有無と、値動きの大きさ(リスク)はまったく別の話です。
- 特定の金融商品の売買を今すぐ勧めるものではありません。NISA・暗号資産いずれも、価格変動によって元本を割り込む可能性があります。投資は自己責任で、余剰資金の範囲で行ってください。
まとめ:制度は「まだ動いている途中」と捉えて、慌てず情報を追う
金融庁が2026年8月31日に公表した2027年度税制改正要望のうち、NISAの非課税枠「年内復活」は、まだ実現していない要望段階の話です。過去に一度見送られた経緯もあり、次の税制改正大綱でどう扱われるかは今後の議論次第です。制度改正のニュースに触れたときは、それが要望なのか決定なのかを冷静に見極め、確定していない情報を前提に慌てて行動しないことが、長期的な資産形成では大切だと筆者は考えます。NISAも暗号資産も、それぞれの制度の特徴とリスクを理解したうえで、自分のペースで付き合っていきましょう。

