
「実家の親がNISAで投資信託を積み立てているんだけど、もし認知症になったらあの口座ってどうなるんだろう…」

「万が一のとき、家族が代わりに解約したり売ったりできないと困るよね」
結論から言うと、証券口座の名義人が認知症などで判断能力を失うと、家族であっても原則としてその口座の取引はできなくなります。これは一般に「資産凍結」と呼ばれる状態で、NISA口座でも例外ではありません。ただし、元気なうちに準備しておけば、家族が資産管理を引き継げる制度もあります。この記事では、なぜ口座が凍結されるのか、そして今からできる備えについて、初心者向けに整理します。 ※ 制度内容は変更されることがあるため、最新情報は金融庁・日本証券業協会および口座のある証券会社の公式サイトでご確認ください(本記事は2026年8月執筆時点の情報です)。
なぜ認知症になると証券口座は凍結されるのか
証券会社は、口座名義人本人の「意思」に基づいてしか取引を受け付けられません。株式や投資信託の売買、解約、出金といった手続きは、本人が内容を理解し、自分の意思で判断できることが前提になっています。
認知症などで判断能力が低下すると、証券会社は「本人が本当に納得して指示しているのか確認できない」と判断し、新規の買付だけでなく、売却や出金を含めた取引全般を停止する対応をとります。これは、判断能力が不十分な状態で不利な取引をしてしまう本人を保護するための措置であり、証券会社が悪意で資産を止めているわけではありません。
家族であっても、委任状や実印があるというだけでは、本人に代わって取引することはできません。「配偶者だから」「子どもだから」という理由だけでは代理人にはなれない、という点は誤解されやすいポイントです。
NISA口座ならではの注意点
NISA口座も通常の証券口座と同じ会社のシステムで管理されているため、名義人の判断能力が低下すれば同様に凍結の対象になります。非課税の恩恵がある制度だからといって、特別な扱いを受けるわけではありません。
さらにNISAには、年間の非課税投資枠や生涯投資枠といった仕組みがあり、口座が凍結されて売買ができない間は、値動きに応じて資産配分を見直したり、非課税枠を活用した買い増しをしたりすることもできなくなります。「非課税枠を活かした運用」という制度のメリットを、判断能力の低下後は活かしにくくなる点も理解しておく必要があります。
認知症に備える3つの選択肢
判断能力が低下したあとにできることは限られています。だからこそ、元気なうちにどの方法で備えるかを検討しておくことが大切です。ここでは代表的な3つの選択肢を紹介します。
1. 家族サポート証券口座(証券業界の新しい仕組み)
日本証券業協会は、高齢の顧客が認知機能の低下後も家族に資産管理を引き継げるよう、「家族サポート証券口座」という制度の要綱を2025年2月に公表しました。
この制度は、本人が元気なうちに、信頼できる家族を「家族代理人」として決め、運用の方針(どの程度のリスクまで許容するか、どんな商品を扱うかなど)を話し合ったうえで、本人と代理人の間で公正証書による委任契約を結び、口座のある証券会社に届け出るという仕組みです。新しく専用口座を開設する必要はなく、既存の口座をこの制度に切り替える形で利用します。
家族代理人になれるのは、国内に住む配偶者や成人した子・孫(直系卑属)が基本で、そうした家族がいない場合には兄弟姉妹や甥・姪も認められます。本人の判断能力が低下したあとは、あらかじめ決めた運用方針の範囲内で、家族代理人が売買や事務手続きを引き継ぐことができます。ただし、信用取引やデリバティブ取引のような制度の趣旨に合わない高リスクな取引は対象外とされ、出金先も本人名義の銀行口座に限られるなど、一定の歯止めが設けられています。
📰 出典:日本経済新聞「認知症に備える証券口座 日証協、新たな仕組み創設」
報道によれば、この仕組みの大きな特徴は、後述する成年後見制度では基本的にできない「新規の買付を含む運用の継続」が可能になる点にあります。ただし、2026年8月時点ではすべての証券会社が対応しているわけではないため、利用できるかどうかは口座のある証券会社に個別に確認する必要があります。
2. 成年後見制度(法定後見・任意後見)
以前から存在する公的な制度として、成年後見制度があります。判断能力が低下したあとに家庭裁判所が後見人を選任する「法定後見」と、元気なうちに将来の後見人を自分で決めておく「任意後見」の2種類があります。
成年後見制度を使うと、後見人は本人に代わって資産の管理や必要な範囲での売却・解約を行えるようになりますが、一般的に新たに株式や投資信託を買い付けるような「資産運用」は本人保護の観点から想定されておらず、原則として行えないとされています。また、家庭裁判所への申し立てや後見人への報酬など、一定の時間と費用がかかる点、いったん開始すると本人の判断能力が回復しない限り途中でやめにくい点も、あらかじめ知っておきたいポイントです。
3. 家族信託
信頼できる家族に、あらかじめ財産の管理・運用を託しておく「家族信託」という契約の仕組みもあります。証券会社の制度に限らず、不動産や預貯金なども含めた財産全体の管理方法を柔軟に設計できる点が特徴ですが、契約内容の設計には専門的な知識が必要になるため、利用を検討する場合は司法書士や弁護士など専門家に相談することをおすすめします。
今からできる4つの備え
- 家族で資産状況を共有しておく:どの証券会社にNISA口座や証券口座を持っているか、家族が把握できるようにリスト化しておきましょう(パスワードそのものを共有する必要はありません)
- 口座のある証券会社に代理人制度の有無を確認する:家族サポート証券口座を含め、代理人を指定できる制度があるかどうかは会社によって異なります。まずは電話や窓口で問い合わせてみましょう
- 判断能力があるうちに検討・契約を済ませる:家族サポート証券口座の公正証書による委任契約も、成年後見制度の任意後見契約も、本人に契約内容を理解する能力があることが前提です。「まだ元気だから」と先延ばしにせず、比較的早い段階で検討しておくことが大切です
- 専門家に相談する:成年後見制度や家族信託は制度が複雑なため、司法書士・弁護士・ファイナンシャルプランナーなど専門家に相談しながら、自分たち家族に合った方法を選ぶと安心です
実践する際の注意点・リスク
- 認知機能が低下してからでは、新たに委任契約を結んだり後見制度の利用を始めたりすること自体が難しくなる可能性があります。備えは「まだ大丈夫」と思えるうちに検討するのが基本です
- 証券会社ごとに導入している制度や対応状況は異なります。本記事で紹介した内容は一般的な仕組みの説明であり、特定の証券会社の利用を推奨するものではありません
- 家族代理人や任意後見人を決める際は、権限の範囲やお金の流れについて家族間で認識をすり合わせておかないと、あとでトラブルになりかねません。書面で明確にしておきましょう
- 家族が資産運用を引き継げるようになったとしても、投資である以上、元本割れの可能性がなくなるわけではありません。「長期・分散・積立」という基本的な考え方は、代理人が運用する場合でも変わらない前提として意識しておきましょう
- 制度の詳細(対応する証券会社、必要書類、費用など)は変更される可能性があります。検討する際は必ず日本証券業協会や口座のある証券会社の最新の公式情報を確認してください
まとめ 「まだ先の話」と思わず、元気なうちに家族で話し合いを
NISAをはじめとする証券口座は、判断能力が低下すると家族であっても自由に取引できなくなる「資産凍結」のリスクがあります。以前は成年後見制度くらいしか選択肢がありませんでしたが、2025年に「家族サポート証券口座」という新しい仕組みが証券業界に導入され、家族信託とあわせて選択肢が広がりつつあります。
どの方法を選ぶにしても共通しているのは、「判断能力があるうちに準備しておく」ことが前提になっている点です。自分自身の将来のためにも、高齢の親のためにも、「まだ先の話」と先延ばしにせず、まずは口座のある証券会社に問い合わせたり、家族で資産状況を話し合ったりすることから始めてみてはいかがでしょうか。
本記事は情報提供を目的としたものであり、特定の金融商品・金融機関・制度の利用を推奨するものではありません。投資には元本割れのリスクが伴います。制度の具体的な利用や成年後見・家族信託の契約については、司法書士・弁護士などの専門家や口座のある証券会社に個別にご確認のうえ、自己責任でご判断ください。

