
「保有していた株を損切りしたら、思ったより大きな赤字になってしまった…この損失って、何かの役に立つの?」

「税金の話は難しそうで、確定申告なんて自分には縁がないと思ってたな」
結論から言うと、特定口座・一般口座(NISA以外の課税口座)で株式や投資信託を売って損失が出た場合、その年の値上がり益や配当・分配金と相殺する「損益通算」や、相殺しきれない損失を最大3年間繰り越せる「繰越控除」という制度があります。どちらも確定申告をすることで使える仕組みで、知っているかどうかで納める税金の額が変わることがあります。この記事では、初心者の方に向けて、損益通算・繰越控除の基本的な考え方と手続きの流れ、注意点をやさしく解説します。 ※ 本記事は2026年7月執筆時点の制度に基づく一般的な情報提供です。税制は改正されることがあるため、最新の内容や個別の判断は国税庁・税務署・税理士にご確認ください。
そもそも「損益通算」「繰越控除」とは?知っておきたい基本
損益通算とは、利益と損失を相殺できる仕組み
損益通算とは、同じ年の中で発生した株式等の譲渡損失(売って出た赤字)を、他の株式等の譲渡益や配当・分配金と相殺できる制度です。相殺した分だけ課税対象の所得が減るため、結果的に納める税金が少なくなる場合があります。
📰 出典:No.1474 上場株式等に係る譲渡損失の損益通算及び繰越控除|国税庁
例えば、A株を売って30万円の利益、B株を売って20万円の損失が出た場合、損益通算をすると課税対象の利益は「30万円-20万円=10万円」に圧縮されます。何もしなければ30万円の利益に課税されてしまうため、この仕組みを知っているかどうかで手取りが変わってくるわけです。
繰越控除とは、相殺しきれない損失を翌年以降に持ち越せる仕組み
その年の利益だけでは相殺しきれないほど大きな損失が出た場合、残った損失は翌年以降最大3年間にわたって繰り越し、将来の株式等の譲渡益や配当と相殺できます。これを「繰越控除」と呼びます。
📰 出典:No.1465 株式等の譲渡損失(赤字)の取扱い|国税庁
暴落局面で大きな含み損を抱えたまま損切りした年は、その年だけでは利益が少なく相殺しきれないことがあります。そうしたときも、翌年・翌々年に利益が出れば、過去の損失分を差し引いて税負担を抑えられる可能性があるということです。
なぜ資産形成において重要なテーマなのか
投資である以上、含み損や実現損はどうしても避けられません。損益通算・繰越控除は「損失を利益に変える魔法」ではありませんが、避けられない損失が出てしまったときに、税制上のルールを正しく使うことで負担を必要以上に大きくしないための知識です。長期・分散・積立を基本としながらも、こうした制度の存在を知っておくことは、無理なく投資を続けるための一つの土台になります。
損益通算・繰越控除を活用するための5ステップ
1. 自分の口座の種類を確認する
まず前提として、この制度が使えるのは特定口座・一般口座など課税口座での損失です。NISA口座(新NISA)で生じた損失は、税制上「損失がなかったもの」として扱われるため、他の口座の利益と損益通算することも、繰越控除の対象にすることもできません。
📰 出典:No.1535 NISA制度|国税庁
NISAは利益が非課税になる代わりに、損失についても税制上の救済がないというセットの仕組みだと理解しておくと混乱しにくくなります。まずは証券会社の取引画面などで、損失が出た取引がどの口座区分だったかを確認しましょう。
2. 「源泉徴収あり特定口座」内では自動で相殺されるケースを知る
同じ証券会社の「特定口座(源泉徴収あり)」内であれば、年間を通じた株式等の譲渡益と譲渡損、さらに株式数比例配分方式で受け取る配当等は、証券会社側である程度自動的に相殺され、税金が調整される仕組みになっています。この場合、その口座内だけで完結するなら確定申告をしなくても損益通算の効果を受けられることがあります。
3. 複数口座・翌年以降への繰り越しには確定申告が必要
一方で、次のようなケースでは確定申告をしないと損益通算・繰越控除の効果を得られません。
- 異なる証券会社の口座間で利益と損失を相殺したいとき
- 「特定口座(源泉徴収なし)」や「一般口座」の損益を通算したいとき
- 損失を翌年以降に繰り越したいとき
確定申告の時期(原則として翌年2月16日〜3月15日ごろ)に、各証券会社から発行される「年間取引報告書」をもとに申告を行います。
4. 繰り越した年も「取引がなくても」申告を続ける
繰越控除を使い続けるには、たとえその年に株式の売買を一切していなくても、繰越期間中は毎年連続して確定申告をする必要があります。一度申告を忘れてしまうと、それまで繰り越してきた損失を使う権利が失われてしまうことがあるため注意が必要です。
5. 迷ったら税理士・税務署・証券会社に相談する
損益通算の対象になる所得の範囲や、複数口座がある場合の計算方法は状況によって細かく異なります。判断に迷う場合は自己判断で進めず、税務署の相談窓口や税理士、利用している証券会社のサポート窓口に確認することをおすすめします。
具体例で見る 損益通算・繰越控除のイメージ
数字のイメージがあると理解しやすいので、あくまで一例として簡単な試算を紹介します。実際の税額は所得の状況によって変わるため、目安としてご覧ください。
| 年 | その年の譲渡損益 | 損益通算・繰越控除後の課税対象額 | 補足 | |—|—|—|—| | 1年目 | 大幅下落局面で損切りし▲60万円 | 0円(利益がなく通算できず) | 確定申告をして▲60万円を繰り越す | | 2年目 | 値上がりで+20万円 | 0円 | 繰越損失▲60万円のうち20万円を相殺、残り▲40万円をさらに繰り越し | | 3年目 | 値上がりで+25万円 | 0円 | 繰越損失▲40万円のうち25万円を相殺、残り▲15万円を繰り越し | | 4年目 | 値上がりで+10万円 | 0円 | 繰越期限(3年)内の▲15万円のうち10万円を相殺 |
※ 上記はあくまで制度の考え方を理解するための簡略化した一例であり、実際の損益・税額を保証するものではありません。損失を100%使い切れるとは限らない点にもご注意ください。
このように、大きな損失が出た年に確定申告をして繰り越しておくことで、その後数年間にわたって利益にかかる税負担を抑えられる可能性があります。逆に言えば、確定申告をしなければこの繰り越しの権利自体が発生しないため、「損切りしたら申告する」というワンセットの行動として覚えておくとよいでしょう。
よくある疑問 投資信託や配当は対象になる?
投資信託(株式投資信託)の売却損も対象になりますか?
上場株式だけでなく、株式投資信託(公募株式投資信託)の売却損についても、上場株式等の譲渡損益として損益通算・繰越控除の対象に含まれます。個別株と投資信託を併用している方は、証券会社が発行する年間取引報告書でまとめて確認できます。
配当金・分配金との通算はどちらが優先されますか?
譲渡損失は、上場株式等の譲渡益だけでなく、申告分離課税を選択した配当金・分配金とも損益通算できます。ただし、配当控除など他の税制優遇との兼ね合いで有利・不利が変わることもあるため、配当所得が多い方は申告方法(総合課税・申告分離課税・申告不要制度)の選び方も含めて税理士に相談すると安心です。
外国株式の売却損はどうなりますか?
外国上場株式の売却損も、国内の上場株式等と合わせて損益通算・繰越控除の対象になる場合があります。ただし為替差損益の扱いなど細かい論点があるため、外国株投資をしている方は取引報告書の内容を証券会社に確認しつつ進めるとよいでしょう。
損益通算・繰越控除の手続きイメージ
- 必要書類:証券会社発行の「特定口座年間取引報告書」(複数口座がある場合は口座ごとに用意)
- 申告方法:確定申告書を税務署へ提出(郵送・持参)、またはe-Tax(国税庁のオンライン申告システム)でも提出可能
- 申告時期:原則として損失が発生した翌年の2月16日ごろ〜3月15日ごろ(年により多少前後する場合があります)
- 繰り越し中の注意:繰越控除を使い切るまでは、取引がない年も含めて連続して確定申告をする必要があります
初心者がやりがちなNG行動・勘違い
NISA口座の損失も通算できると思い込む
新NISAで始めて投資をした方に特に多い誤解です。NISA口座内の損失は税制上「なかったもの」として扱われるため、課税口座の利益と相殺することはできません。NISAと特定口座を併用している方は、この違いを混同しないようにしましょう。
確定申告不要制度と勘違いして申告しない
「源泉徴収ありの特定口座だから確定申告は不要」と思い込み、複数口座間の損益通算や繰越控除まで自動的に処理されると誤解してしまうケースがあります。確定申告不要制度はあくまで「申告しなくても納税が完結する」という制度であり、損益通算・繰越控除のメリットを最大限に受けたい場合は、あえて確定申告をする選択肢も検討する必要があります。
「節税のためだけ」に無理な損切りをする
年末が近づくと「損益通算のために今のうちに損切りしておこう」という考え方(いわゆる損出し)を目にすることがあります。税金の負担を抑える効果はあり得ますが、あくまで自分の投資方針やリスク許容度に照らして判断すべきものであり、税金対策だけを目的に本来続けたかった保有方針を崩すのは本末転倒になりかねません。
知っておきたいリスクと注意点
- 損益通算・繰越控除は、あくまで「発生してしまった損失」への税制上の手当てであり、投資の損失そのものを補うものではありません。株式投資には元本割れのリスクが常にあることを前提に取り組む必要があります。
- 税制は改正される可能性があります。繰越期間や対象範囲などの詳細は、必ず国税庁の最新情報や税務署・税理士への確認をおすすめします。
- 確定申告の要否は、給与所得の有無や他の所得状況によっても変わります。個別の申告要否や具体的な計算は、税理士・税務署に相談するのが確実です。
- 本記事は制度の一般的な説明を目的としたものであり、特定の売買タイミングや個別銘柄の投資判断を推奨するものではありません。最終的な投資判断はご自身の責任で、余剰資金の範囲で行ってください。
まとめ 損失が出たときこそ、制度を正しく知っておこう
損益通算・繰越控除は、株式投資で避けられない損失が出てしまったときに、税負担を必要以上に大きくしないための公的な制度です。ポイントは「課税口座の損失が対象でNISAは対象外であること」「相殺しきれない損失は最大3年繰り越せること」「繰り越すには取引がない年も含めて毎年申告が必要なこと」の3つです。
含み損や実現損は誰にでも起こり得るものです。損失そのものを恐れすぎず、いざというときにこの制度を正しく使えるよう、まずは自分の口座の種類と、証券会社が発行する年間取引報告書の見方から確認してみてはいかがでしょうか。

