
「もし自分に何かあったら、持っているビットコインってどうなるんだろう…」

「通帳と違って、家族が存在に気づけないんじゃないかって、ちょっと不安なんだよね」
結論から言うと、暗号資産(仮想通貨)も預金や株式と同じように相続の対象になります。ただし、現金や銀行口座と違って「そもそも家族が保有の事実に気づけない」「秘密鍵やパスワードが分からず誰もアクセスできない」といった、暗号資産特有の落とし穴があります。この記事では、暗号資産の相続がなぜ難しいと言われるのか、その理由と、今からできる生活防衛的な備えについて、初心者向けに整理します。
※ 本記事は2026年7月時点の一般的な情報をもとにした解説です。相続税の評価方法や申告の要否は個々の事情によって異なるため、具体的な判断は税理士・税務署など専門家にご確認ください。また、本記事は特定の暗号資産の購入や特定サービスの利用を推奨するものではありません。
なぜ暗号資産の相続は「気づかれない」「引き出せない」と言われるのか
暗号資産の相続でまず押さえておきたいのは、法律上の扱いとしては預金や株式と同じく相続財産に含まれるという点です。保有者が亡くなった場合、暗号資産も遺産分割の対象になり、相続税の課税対象にもなります。ここまでは他の資産と変わりません。
問題は「実務上の壁」です。銀行口座であれば、通帳やキャッシュカード、金融機関からの郵便物などから遺族が存在に気づき、金融機関に問い合わせることができます。ところが暗号資産は次のような特徴があるため、家族が把握しにくい資産の代表格とされています。
- スマートフォンアプリやWeb上の取引所口座で完結しており、紙の通帳のような「見える手がかり」が残りにくい
- 口座名義人本人しかログインできず、IDやパスワード、二段階認証の設定を知らないと家族はアクセスできない
- 自己管理型のウォレット(取引所を介さず、自分で秘密鍵を保管する方法)の場合、秘密鍵やシードフレーズ(復元用の単語列)を紛失すると、理論上は誰も資産を取り戻せない
つまり暗号資産は「存在に気づいてもらえない」「気づいても中身にたどり着けない」という二重のハードルがある資産だと理解しておくことが、対策の第一歩になります。
家族が困らないためにやっておきたい5つの考え方
1. 「保有していること」だけは家族に伝えておく
まず大切なのは、パスワードそのものではなく「暗号資産を保有している事実」と「どの取引所・どのサービスを使っているか」を、信頼できる家族に伝えておくことです。パスワードや秘密鍵を口頭やメモでそのまま渡すのは盗難・紛失のリスクがあるため避けたいところですが、存在自体が分からなければ、そもそも相続の手続きが始まりません。
エンディングノートや資産一覧表に「〇〇取引所に口座あり」「△△というウォレットアプリを利用」といった程度の情報を残しておくだけでも、遺族が金融機関や取引所に問い合わせる際の大きな手がかりになります。
2. 秘密鍵・パスワードは「共有」ではなく「たどり着ける仕組み」を作る
生きている間は自分だけがアクセスできる状態を保ちつつ、万が一のときには家族が正規の手続きでたどり着けるようにしておく、というバランスが重要です。具体的には次のような工夫が考えられます。
- パスワード管理アプリの緊急連絡先・継承機能を活用する
- 信頼できる専門家(弁護士・司法書士など)に、財産目録の保管とあわせて相談しておく
- 自己管理型ウォレットの場合、シードフレーズの保管場所(金庫など)だけを家族に伝え、内容そのものは厳重に管理する

「パスワードを紙に書いてタンスにしまっておけばいいのかな?」

「それだと盗難や紛失のリスクもあるから、保管方法自体をよく考える必要がありそうだね」
なお、「絶対に安全な方法」というものは存在しません。デジタル資産の相続対策は発展途上の分野でもあるため、不安な場合は専門家に相談しながら、自分たちの状況に合った方法を選ぶことをおすすめします。
3. 取引所を使っている場合の相続手続きの流れを知っておく
国内の金融庁登録の暗号資産交換業者を利用している場合、口座名義人が亡くなったことが確認されると、取引所側で口座を凍結し、相続人からの請求に基づいて資産を払い出す、という流れが一般的です。必要書類は取引所によって多少異なりますが、目安として次のようなものが求められます。
- 被相続人の死亡が確認できる書類(戸籍謄本など)
- 相続人であることを証明する戸籍謄本一式
- 遺産分割協議書、または遺言書
- 相続人の本人確認書類
このとき、金融庁登録の取引所であれば法令に基づいた本人確認・相続手続きの体制が整っている点は安心材料のひとつです。一方で、無登録の海外取引所を利用していた場合、そもそも日本の相続法に沿った手続きに対応していなかったり、問い合わせ窓口が実質的に機能しなかったりするケースも報告されています。取引所選びの段階から、相続時のことも含めて金融庁登録業者を利用しておくことが、結果的に家族を守ることにつながります。
📰 出典:金融庁「暗号資産交換業者登録一覧」
4. 相続税の評価方法と申告の基礎を知っておく
暗号資産も相続税の課税対象であり、原則として「相続開始時点(亡くなった日)の時価」で評価されます。国税庁は暗号資産の税務上の取扱いについて指針を公表しており、活発な市場が存在する暗号資産については、取引を行っている取引所が公表する価格などを基に評価する考え方が示されています。
ここで注意したいのが、相続税の評価と、実際に売却して得られる金額は必ずしも一致しないという点です。暗号資産は株式以上に価格変動(ボラティリティ)が大きいため、相続開始時点では高い評価額だったものが、納税や遺産分割の手続きを進めている間に大きく値下がりし、「評価額に対して納税資金が足りない」という事態も起こり得ます。この価格変動リスクは、暗号資産の相続に特有の注意点として押さえておきましょう。
また、相続した暗号資産をその後売却して利益が出た場合は、通常の暗号資産の売却と同じく雑所得として所得税・住民税の課税対象になり、確定申告が必要になるケースがあります。相続税と、売却時の所得税は別物であるという点も混同しないようにしたいところです。相続税評価や申告の具体的な計算は個々の事情によって大きく変わるため、税理士や税務署への相談を強くおすすめします。
5. 自己管理型ウォレットのリスクをあらためて理解しておく
取引所を介さず、自分でスマートフォンやハードウェア機器に秘密鍵を保管する「自己管理型ウォレット」は、セキュリティ意識の高い人ほど利用する傾向がありますが、相続の観点では最もリスクが大きい保有方法とも言えます。秘密鍵やシードフレーズを本人以外の誰も知らない状態で亡くなってしまうと、資産は誰にも引き出せないまま、事実上失われてしまいます。
実際に、パソコンやスマートフォンの紛失・処分によって暗号資産にアクセスできなくなった、という事例は海外でも度々報じられています。自己管理型ウォレットを使う場合は、生きている間の対策として、前述のようなシードフレーズの安全な保管方法をあらかじめ決めておくことが欠かせません。
生前対策を考えるときに注意しておきたいリスク
暗号資産の相続対策を考える際は、次のようなリスクにも注意してください。
- 価格変動リスク: 暗号資産は株式以上に値動きが大きく、相続税評価額と実際の資産価値が大きくずれる可能性があります。相続財産全体のバランスを考えるうえでも、この特性は意識しておく必要があります。
- 詐欺・不審な勧誘のリスク: 「相続対策を代行します」「暗号資産の名義変更サービス」などをうたい、パスワードや秘密鍵の提供を求めてくる不審な業者・個人には注意してください。正規の手続きは金融庁登録の取引所や、弁護士・税理士などの専門家を通じて行うのが基本です。
- 無登録・海外取引所のリスク: 相続手続きへの対応が不十分な場合があるほか、そもそもトラブル時の保護体制が国内登録業者に比べて弱いことがあります。新たに口座を開設する際は、金融庁登録の暗号資産交換業者を選ぶようにしましょう。
- ハッキング・送金ミスのリスク: 生前・相続後を問わず、暗号資産は不正アクセスや誤送金による資産消失のリスクが常につきまといます。二段階認証などの基本的なセキュリティ対策は、日頃から徹底しておきたいところです。
よくある疑問 Q&A
Q. 遺言書に「暗号資産を〇〇に相続させる」と書けば、それだけで安心ですか?
遺言書で相続人や分け方を指定しておくこと自体は有効な備えですが、それだけでは不十分な場合があります。遺言書には「どの取引所に、どのような資産があるか」という情報までは通常書かれていないことが多いためです。遺言書と合わせて、資産の所在(取引所名やウォレットの種類など)を分かるようにしておくエンディングノートなどを併用すると、より実効性が高まります。
Q. 家族と一緒に取引所の口座を共有すれば手っ取り早いのでは?
多くの取引所の利用規約では、口座の共有や名義貸しは禁止されています。家族であっても他人名義の口座を勝手に操作すると規約違反やトラブルの原因になりかねません。共有ではなく、前述のように「存在を伝える」「専門家を交えて仕組みを整える」という形で備えるのが基本的な考え方です。
Q. 生前に家族へ暗号資産を贈与しておいた方が良いのでしょうか?
生前贈与は相続対策の選択肢のひとつとして一般的に語られることがありますが、贈与税の課税や、暗号資産特有の評価・記録の煩雑さなど、考慮すべき点が多くあります。安易に「贈与すれば節税になる」と判断せず、家族構成や資産状況を踏まえて税理士に相談しながら検討することをおすすめします。
暗号資産と他の資産、相続対策の考え方の違い
現金や上場株式であれば、金融機関や証券会社に照会すれば、原則として口座の有無や残高を確認できます。一方で暗号資産は、名義人本人以外が存在を把握する手段が乏しく、照会先も「どの取引所を使っていたか」が分からなければ始まりません。
- 現金・預金: 通帳や郵便物、金融機関への照会で把握しやすい
- 上場株式・投資信託: 証券会社からの取引報告書などで把握しやすい
- 暗号資産(取引所利用): スマホアプリ完結が多く、取引所名が分からないと照会できない
- 暗号資産(自己管理型ウォレット): 秘密鍵やシードフレーズを本人以外が知らなければ、事実上誰もアクセスできない
この違いを理解しておくと、「暗号資産だけは、他の資産以上に生前の情報整理が重要になる」という感覚を持ちやすくなります。資産全体の棚卸しをする際は、暗号資産についても一覧に加えておくことを習慣にしておきましょう。
まとめ 「気づける」「たどり着ける」仕組みを、無理のない範囲で
暗号資産の相続は、法律上は他の資産と同じ扱いを受けるものの、実務上は「家族が存在に気づけるか」「いざというときに正規の手続きでたどり着けるか」が最大の壁になります。パスワードや秘密鍵そのものを安易に共有するのではなく、保有の事実を伝えておくこと、専門家に相談しながら仕組みを整えておくことが、家族を無用なトラブルから守る第一歩です。
暗号資産は株式以上に値動きが大きく、ハッキングや詐欺、送金ミスによる資産消失のリスクもある資産です。相続や生前対策を考える際も、まずは金融庁登録の暗号資産交換業者を利用し、余剰資金の範囲で無理なく付き合っていくことが大前提になります。相続税の評価や確定申告の具体的な取り扱いは、最終的には税理士・税務署など専門家に確認しながら進めてください。
本記事は情報提供を目的としたものであり、特定の金融商品・サービスの利用や、個別の税務上の判断を助言するものではありません。最終的な判断はご自身の責任で行ってください。

