
「含み損を抱えた株、年末までにどうにかしたほうがいいって聞いたけど、意味あるの?」

「『損出し』って言葉、SNSで見かけるけど仕組みがよく分からなくて…」
結論から言うと、「損出し」とは特定口座で含み損になっている株式等をあえて売却して損失を確定させ、その年の利益と相殺(損益通算)することで税負担を抑える方法のことです。特定口座(源泉徴収あり)であれば証券会社が自動で計算してくれる仕組みですが、やり方を誤ると想定した効果が得られないこともあります。この記事では、損出しの基本的な仕組みと、初心者が注意すべきポイントを分かりやすく解説します。
なお、本記事は一般的な制度の解説を目的としたものであり、特定の銘柄の売買や税務上の判断を助言するものではありません。税金の具体的な計算や確定申告の要否は、必ず税務署または税理士にご確認ください。
そもそも「損出し」とは?基本の考え方
損出しとは、含み損を抱えている株式や投資信託を年内にいったん売却して損失を確定させ、同じ口座内(または他の課税口座)で確定している利益と相殺することで、その年に支払う税金を抑えようとする考え方です。英語では「タックスロスハーベスティング(Tax Loss Harvesting)」とも呼ばれます。
日本の税制では、上場株式等の譲渡益・譲渡損は「申告分離課税」として扱われ、他の株式等の譲渡益や配当等と損益を通算できる仕組みがあります。
📰 出典:国税庁 No.1474 上場株式等に係る譲渡損失の損益通算及び繰越控除
たとえば、ある銘柄で30万円の利益が確定していて、別の銘柄に10万円の含み損がある場合、含み損の銘柄を売却して損失を確定させれば、課税対象の利益は差し引き20万円まで圧縮できる、というのが基本の考え方です。
ここで大切なのは、損出しはあくまで「税金の計算タイミングを調整する手段」であり、投資そのものの成績を良くする魔法ではないという点です。含み損を抱えた銘柄を売ること自体は、その時点での損失を実現させる行為でもあります。
損出しの仕組み 損益通算・繰越控除のルール
損出しを理解するうえで欠かせないのが、「損益通算」と「繰越控除」という2つの税制ルールです。それぞれの仕組みを見ていきましょう。
特定口座(源泉徴収あり)なら証券会社が自動で調整してくれる
特定口座(源泉徴収あり)を利用している場合、口座内で生じた譲渡損益は証券会社が自動的に計算し、年間を通じて損益通算を行ったうえで源泉徴収税額を調整してくれます。
📰 出典:国税庁 No.1476 特定口座制度
つまり、同じ特定口座内であれば、利益が出ている銘柄と含み損の銘柄を年内に売買するだけで、その口座の年間損益に応じて源泉徴収された税金の一部が調整され、原則として確定申告をしなくても手続きが完結します。
複数の口座がある場合は確定申告で損益通算
一方、証券会社が異なる複数の特定口座を持っている場合や、一般口座・NISA口座と特定口座をまたいで損益を通算したい場合は、原則として確定申告が必要です。
証券会社ごとに送られてくる「特定口座年間取引報告書」をもとに、確定申告書に必要事項を記載して申告することで、口座をまたいだ損益通算が可能になります。
損失は最大3年間繰り越せる(要確定申告)
その年の利益だけでは相殺しきれないほど大きな損失が出た場合、確定申告をすることで、その譲渡損失を翌年以降最大3年間にわたって繰り越し、将来の利益と相殺できる「繰越控除」という制度もあります。
📰 出典:国税庁 No.1474 上場株式等に係る譲渡損失の損益通算及び繰越控除
ただし繰越控除を使う場合は、損失が出た年から売買がない年も含めて、毎年連続して確定申告を続ける必要がある点に注意が必要です。申告を1年でも忘れると、繰り越しの権利が失われてしまう可能性があります。
口座の種類によって損益通算の扱いは異なる
損出しの効果は、利用している口座の種類によって大きく変わります。主な口座区分と損益通算の可否を整理すると、次のようになります。
| 口座の種類 | 口座内での自動計算 | 他口座との損益通算 | 繰越控除 | | — | — | — | — | | 特定口座(源泉徴収あり) | 自動で調整される | 確定申告をすれば可能 | 確定申告をすれば可能(最大3年) | | 特定口座(源泉徴収なし) | 年間取引報告書で把握 | 確定申告をすれば可能 | 確定申告をすれば可能(最大3年) | | 一般口座 | 自分で損益を計算 | 確定申告をすれば可能 | 確定申告をすれば可能(最大3年) | | NISA口座 | 対象外(非課税) | できない | できない |
📰 出典:国税庁 No.1476 特定口座制度
表からも分かるとおり、口座をまたいで損益通算をしたい場合や、損失を翌年以降に繰り越したい場合は、口座の種類にかかわらず確定申告が欠かせません。「特定口座だから何もしなくていい」と考えず、自分がどのパターンに当てはまるのかを確認しておきましょう。
具体例で見るイメージ(あくまで一例の試算です)
損出しのイメージをつかみやすくするために、簡単な数値例で確認してみましょう。以下はあくまで理解を助けるための一例であり、将来の成果や特定の運用結果を保証するものではありません。
- A銘柄:年内に売却済みで、40万円の利益が確定している
- B銘柄:年末時点で15万円の含み損を抱えている
この状態で何もしなければ、課税対象となる利益は40万円のままです。ここでB銘柄を年内に売却して損失を確定させると、40万円と15万円が損益通算され、課税対象の利益は25万円まで圧縮される計算になります。
上場株式等の譲渡益・配当等には20.315%(所得税・復興特別所得税・住民税の合計、執筆時点)の税率がかかるとされているため、単純計算では15万円分の損益通算により、税負担が数万円程度軽くなる可能性があるという考え方です。ただし実際の税額は他の所得や控除の状況によって変わるため、正確な金額は証券会社の年間報告書や税理士への相談で確認してください。
「益出し」との違いにも触れておく
損出しの反対にあたる考え方として「益出し(利益出し)」もあります。これは含み益のある銘柄をあえて売却して利益を確定させ、繰越控除の期限が切れる前の過去の損失と相殺する、といった場面で使われる考え方です。
いずれも税負担を調整するための手法という意味では共通していますが、目的や使うタイミングが異なります。どちらも「税制上の仕組みを理解したうえで、投資方針とあわせて検討するもの」という位置づけである点は同じです。
損出しを検討する際の基本的な流れ
損出しを検討する場合、一般的には次のような流れで確認していきます。あくまで一般的な考え方の整理であり、実行を推奨するものではありません。
- 1. 年内の確定損益を確認する その年にすでに確定している利益・損失がどれくらいあるかを証券会社の取引履歴などで把握します。
- 2. 含み損を抱えている銘柄を洗い出す 保有銘柄の中で、取得単価より値下がりしているものをリストアップします。
- 3. 長期保有の方針と照らし合わせる そもそも長期で保有し続けたい銘柄なのか、値下がりを機にポートフォリオを見直したい銘柄なのかを整理します。
- 4. 年末の受渡日を確認する 株式の取引は約定日と受渡日が異なるため、その年の損益として計上したい場合は、受渡日ベースで年内に間に合うかを証券会社に確認します。
このように、損出しは「税金の調整」と「もともとの投資方針」の両方を踏まえて判断するものであり、含み損を減らすためだけに機械的に売買を繰り返すものではありません。
損出しでやりがちな注意点・NG行動
損出しは制度としては特別なものではありませんが、実行の仕方によっては想定した効果が得られなかったり、余計なコストがかかったりすることがあります。特に初心者が誤解しやすいポイントを整理します。
同日に買い直すと取得単価がずれる「買いが先」ルールに注意
損出しをした後、同じ銘柄をそのまま保有し続けたいという理由から、売却した直後に買い直すケースがあります。ここで注意したいのが、特定口座では同一日に同一銘柄を売買した場合、実際の取引順序にかかわらず「買付けを先に行ったもの」とみなして取得単価や譲渡損益を計算するルールがあることです。
📰 出典:みずほ証券 よくあるご質問 特定口座内で同一銘柄を同じ日に売買した場合の取得単価計算
このルールにより、同じ日のうちに売却と買い直しを行うと、想定していたほど損失が確定しない、あるいは取得単価が意図と異なる形で計算し直されるといったケースが起こり得ます。日をまたいで取引するのか、同日中に行うのかによって結果が変わる可能性があるため、実行前に取引を行う証券会社のルールを確認しておくことが大切です。
NISA口座では損出しの効果がない
NISA口座で保有している商品を売却して損失が出た場合、税務上その損失は「なかったもの」とみなされます。そのため、特定口座や一般口座の利益と損益通算することも、翌年以降に繰り越すこともできません。
📰 出典:国税庁 No.1535 NISA制度
NISAは非課税制度である一方、この「損失面での恩恵がない」という特性とセットで理解しておく必要があります。値下がりしているからといって、節税を目的にNISA口座内の商品だけを売却しても、税制上のメリットは得られない点に注意しましょう。
手数料や税制メリットだけで売買判断をしない
損出しには売買のたびに手数料がかかります。相殺できる税額よりも手数料のほうが大きくなってしまっては、本来の目的である「手取りを増やす」ことから逆行してしまいます。
また、いったん売却した銘柄が、買い直す前に値上がりしてしまい、結果的に高い価格で買い戻すことになるリスクもあります。税制上のメリットだけに目を向けず、そもそもその銘柄を今後も保有したいのかどうか、投資方針全体の中で判断することが大切です。
損出しは万能ではない リスクと自己責任を忘れずに
ここまで見てきたように、損出しは正しく理解すれば税負担を調整できる仕組みですが、あくまで「税金の計算上のタイミング調整」であり、投資の損失そのものを取り戻す手段ではありません。
- 売却によって損失そのものは確定してしまう
- 同日の買い直しは取得単価の計算に影響する場合がある
- 手数料や値動きによっては、かえって不利になることもある
- 確定申告が必要になるケースでは、手続きを忘れると恩恵を受けられない
制度や税率、口座ごとの取り扱いは今後変更される可能性があります。本記事の内容は執筆時点(2026年8月)の一般的な情報であり、実際に損出しを検討する際は、利用している証券会社の最新のルールを確認したうえで、必要に応じて税務署や税理士に相談してください。
投資は元本割れのリスクを伴います。本記事は情報提供を目的としたものであり、特定の金融商品の購入・売却を推奨するものではありません。最終的な投資判断は、ご自身の状況を踏まえたうえで、余剰資金の範囲で自己責任にて行ってください。
まとめ 制度を正しく理解し、投資方針とセットで考える
損出しは、特定口座内の含み損を活用して税負担を抑える一般的な仕組みですが、同日買い直しの取得単価ルールやNISA口座では効果がないことなど、見落としやすい注意点も少なくありません。
大切なのは、税制上のメリットだけを追いかけて機械的に売買を繰り返すのではなく、「そもそもその銘柄を今後どうしたいのか」という長期的な投資方針とあわせて考えることです。仕組みを正しく理解したうえで、必要であれば専門家にも相談しながら、無理のない資産形成を続けていきましょう。

